ニューヨークはアメリカで一番英語の上達に向かない街

 

まだまだ拭えない日本にある英語イメージ

少しだけホッとした彼女は、「でも、他にも悩みがあって」と続けます。「一緒に暮らしている彼氏がアタシが英語を勉強することをすごく嫌がって…」と。どうして?キョトンとする僕に彼女は
「彼氏は、英語なんて勉強しなくていい!オレたちは日本人なんだからって怒るんです」
「それは君と離れたくないから、アメリカに行かせてたくないからじゃないの?」
「そんなかわいい理由じゃないです」と次のことを説明してくれました。

4つ年上の彼氏は、元々外資系企業で働くのが夢だった。でも、英語力が足りず、その夢を諦めて、今は、町の不動産屋で働いている。その恨みとコンプレックスも手伝って、英語を必死で勉強する彼女を常に責め続けるようになった。それでも英語の勉強をやめない彼女に責めるだけならまだしも、最近では嫌味まで言い出す始末。

「まず、英語をペラペラで話せる奴でロクな奴はいない、偉そうだ、カッコつけてる」から始まり、とうとう終いには「英語が話せるヤツは、スペシャリストとして便利屋に使われる。オレの知っているゼネラリストは英語の話せる奴を使って出世している。英語を話せるようになると、絶対に日本社会では損する」とまで言い出したとか。彼女がある日「カメラ」のことを「キャメラ」と発音すると、その日から「おい、キャメラ」とニヤニヤしながら、あだ名をつけられた模様。

その話を聞いて、ついつい爆笑してしまった僕は「真剣に相談してるんですけど」とまず彼女に睨まれました。慌てて、「でも、それ本当の話?」と軌道修正をしつつ確認します。確かに80年代、いや、ギリギリ90年代までは、日本という国全体でその風潮はあったと記憶します。「英語をペラペラに話せる奴は鼻にかけてるイヤなヤツだ」と。でも、いま、2019年も終わろうとしてるよ。 令和だよ。いまだに、そんな奴いる?

「英語を話すやつはキザ」まではギリギリなんとなくわかっても、「英語を話せたら社会で損する」って(笑)80年代じゃあるまいし。「でも、いまだにそういう風潮がある業種や上司が存在することも事実なんです」まっすぐにこっちを見て言う彼女の言葉が終わらないうちに、気づけば僕は被せるように「じゃあ、そんな会社やめちゃえよ」と口走っていました。少しだけ暴言だと即、反省。そんな簡単に辞めるわけいかないよね。でも本音でした。

確かに、英語ができるから能力が高いなんてことはありません。だからって、できるから能力が低いってことも、また絶対にない。できないから、高い、なんて理屈はもうなにがなんだかわからない。実際にキザで鼻にかけてるヤツもいるとは思います。だからって、話せる人間がみんなそうだとは限らない。当たり前だけど。

いま、40代半ばになってまでも、学生時代に耳にした風潮がまだ存在することに少しだけ愕然としました。もちろん30年前に比べると、その風潮も劇的に風化しているとは思います。でもゼロになってないんだということに、力の抜ける思いでした。

「英語が話せたら出世しない」なんて理屈を言う人間は、逆にどんな理屈でも作れてしまうんだろうなとも思います。その人間は、もし自分が話せたら「英語が話せないと出世しない」という理論武装にすぐ変える。間違いなく変える。強引な論理を展開すれば「ITに詳しいヤツは、実は出世しない」「人心掌握できる人間は、逆に成功しない」「会計の知識があったら、むしろお金儲けできない」というロジックだって作れます、なんなら。なんでも理屈にできる。もうなんでもありの世界じゃないかとすら思えてくる。もちろん「デジタルに詳しくないと出世できない」「マネージメント力がないと当然、成功しない」「経理に精通していないと、利益はあげられない」という論理も可能。(それ普通か。笑)そんなレベルに感じてしまいます。

こと、英語に関してはマスターできていない日本人の方が圧倒的に絶対数が多いので、そんな理屈もまかり通るのでしょう。「英語が話せる人間はイケ好かない。英語が話せる人間は便利屋として使われてトップに立てない」と。なんの根拠もない。あるわけがない(笑)中2か!

英語が話せて気遣いができる人、英語ができてトップに立てる人も、当然いる。今やそんな方の方が圧倒的に多いはずです。「でも彼はかわいいじゃん。明らかにコンプレックスから来ているロジックだって、君も、そしてなにより彼自身もわかってるとしか思えないよ」少しだけ怒った彼女の機嫌をとるように話しました。

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