禁煙化で止まらぬ客離れ。串カツ田中を襲う創業以来の深刻な危機

2020.01.08
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2018年6月、大手居酒屋チェーンとしては初の禁煙施策をスタートさせ注目を集めていた串カツ田中ですが、現在、創業以来の深刻な危機に陥っているようです。禁煙導入から3ヶ月目には「客数12%増」を実現させた同社に、一体何が起こっているのでしょうか。フリー・エディター&ライターでジャーナリストの長浜淳之介さんが、その原因を探ります。

プロフィール:長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)
兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)、『バカ売れ法則大全』(SBクリエイティブ、行列研究所名儀)など。

串カツ田中を襲う創業以来の深刻な危機

初の禁煙居酒屋チェーンとして知られる、串カツ専門店「串カツ田中」を展開する、串カツ田中ホールディングスが既存店の集客減に悩まされている。同社直営店の既存店売上高は、今年11月で9ヶ月連続の前年割れとなった。しかも11月は最低の前年同月比88.1%にとどまり、11.9%減と上場以来初の2桁減収になってますます悪化している。

既存店とは新規開店した月を除き18ヶ月以上を経過した店舗を指すが、同社直営店の既存店売上高は今年3月に99.6%となって前年を割って以来、一度も前年同月を上回っていない。創業以来の深刻な危機に陥りつつある。

不振の要因は、喫煙者の顧客離れの加速に対して、非喫煙者の集客の伸び悩みに尽きる。「串カツ田中」は2018年6月に居酒屋チェーンとしては初めて、一部の立ち飲み店舗を除く、店内の全席禁煙・フロア分煙に踏み切った。しばらくは好調に推移していたが、突如変調をきたした。

テイクアウト可と全席禁煙が強調された店舗

テイクアウト可と全席禁煙が強調された店舗

既存店客数も4月以降は、8月に101.7%と一時的に回復した以外はずっとマイナスなのである。11月の既存店客数は9.2%減とやはり上場以来最悪の落ち込みで、3ヶ月連続の前年割れだ。顧客単価も下がっており、過去1年で既存店単価が前年を上回ったのは9月の100.9%のみだ。過去1年で3.3%減っている

もっとも出店を重ねて、全店の売上高と客数は、今も2桁以上の高い水準で、前年同月を上回り続けている。18年11月に218店だった店舗数は、19年11月には273店に増えた。1年で55店の増加だ。そろそろ飽和に近づいているのかもしれない。

もちろん、同社の経営陣が無策だったわけではなく、毎月のように串カツ100円セールを実施したり、3世代で楽しめるように子供向けのメニューを充実させたりと、集客浮揚策を打っているが一向に燃えない。

ソース2度漬け禁止の串カツ

ソース2度漬け禁止の串カツ

2度漬け禁止のためキャベツを利用することも可能

2度漬け禁止のためキャベツを利用することも可能

マニアックな嫌煙家たちばかりが、串カツ田中を支持したわけでもない。望まない煙草の煙を吸って肺癌などを発症する健康を害するリスクがない居酒屋チェーンができたと、健康増進への意識が高い良心的な医療関係者、知識層にも絶賛されていた。実際、受動喫煙に対して健康への影響が大きい、子供たちを守る観点から、ファミリーで利用する飲食店を禁煙にするのは、必要な措置である。意識が高い人たちが継続的に利用してくれれば良かったのだが、一体どこに消えてしまったのか。

2020年4月になると、健康増進法が一部改正されて、飲食店は原則屋内禁煙になり、喫煙専用室内でのみ喫煙可となる。資本金5,000万円以下の中小企業(大企業の系列でない)が経営する、客席面積100㎡以下の既存店ならば、喫煙可と掲示の上、20歳未満の顧客と従業員が立ち入れないという条件で、喫煙可にできるといった抜け穴はある。しかし、名だたる飲食企業の居酒屋チェーンは、全て禁煙になるわけだ。違反者には最高で50万円の罰金が科される。そうなると、禁煙が売りであった、「串カツ田中」の競争優位性がなくなってしまう懸念がある。

同社の2019年11月期第2四半期決算説明会で、貫啓二社長は「来年4月になると、条件が同じになるので率先して禁煙化に取り組んだ弊社は有利になる」などと自信を示していたが、それどころか一斉にどの居酒屋チェーンも原則禁煙になってしまったら、埋没してますます売上が落ちるのではないだろうか。

貫啓二社長

貫啓二社長

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