なぜ大半の投資家は、今までテスラ株を買おうともしなかったのか

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イーロン・マスク率いるテスラの株価が急騰し、その時価総額はついにフォードとGMの合計を抜いたと報じられました。同社の躍進を予見していたうちの一人が、世界的エンジニアとして知られる中島聡さん。今回、中島さんはメルマガ『週刊 Life is beautiful』で、自身がテスラに注目した理由を明らかにするとともに、今後大きな変化が起こると思われる業界と伸びることが明らかな企業名を記しています

※ 本記事は有料メルマガ『週刊 Life is beautiful』2020年1月21日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール中島聡なかじま・さとし
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。

第3の投資戦略

テスラという会社の特殊性に関しては、このメルマガでも何度も触れて来ましたが、ようやく市場も気が付いたようで、株価が急騰しています(参照:「Tesla surges past $500 on back of analyst upgrade, China momentum」)。

自動車業界にとってのテスラ車が、ちょうど携帯電話業界にとってのiPhoneのような存在であることは、携帯電話業界と自動車業界の両方でビジネスをしていた私から見れば自明だったし、それを指摘していたのは私だけではありません。

にも関わらず、大半の投資家たちがテスラにこれまで投資できずにいたのは何故なのでしょう?

私は、投資家たちが採用している投資戦略に何かが欠けているからだと思います。

投資戦略としてよく知られているのは、ファンダメンタルズ分析とテクニカル分析、という二つの手法です。

ファンダメンタルズとは、企業が利益を生み出す本質的な力のことで、一株利益や成長率を指標として「適切な株価」を弾き出して、それよりも安ければ買い、高くなれば売るという手法です。PER(price to earnings ratio)は、株価を一株利益で割って求めますが、その数字が同じ業界の似たような成長率の企業と比べて低ければ「(株価が)割安」、高ければ「割高」と考えて投資をするのが一般的です。

テクニカル分析とは、過去の株価の動きだけを見て、売買のタイミングを決める手法で、株価が投資家たちの心理状態を反映したものであることを利用して、タイミングを見計らって利ざやを稼ごうという手法です。よく知られた手法としては、買いシグナルとしての「ゴールデンクロス」があります。ゴールデンクロスとは、二つの移動平均線(例えば、25日移動平均線と5日移動平均線)を引き、短期の移動平均線が長期の移動平均線を超えた時点を「株を買うべきシグナル」として利用するものです(参照:「ゴールデンクロスとは?|代表的な買いシグナルの3条件」)。

ファンダメンタルズ分析の方は、十分に成熟した市場で投資先を決めるには優れた手法ですが、この手法では、テスラのように赤字を垂れ流しながら急成長している企業には投資できません。

テクニカル分析の方は、純粋に株価の動きを見ているため、投機的な(=ギャンブルのような)利ざや稼ぎには適していますが、企業の競争力や収益力を見ているわけではないので、業界全体の大きな変化を掴むことは出来ません。つまり、どちらもテスラのような株を見つけ出すのには適していないのです。

私がテスラに感じている魅力を一言で説明すると、テスラが「一つの業界を大きく変化させる原動力になっているから」です。

自動車業界は、電気自動車や自動運転により引き起こされる大きな転換点にあります。流行りの言葉で言えば、デジタル・トランスフォーメーション(DX)が業界全体に起こっているのです。そんな時には、必ずと言って良いほど「主役の交代」が起こります。既存の顧客、販売ルート、労働組合、縦割り組織などの様々なしがらみを持った既存のプレーヤーたちが、新しい技術をどう活用して良いか悩んでいる隙に、何も失うものを持たない新規参入の企業が、迷いのない戦略で市場に新しい価値を提供して、主役の座を既存の企業から奪ってしまうのです。

全く同じようなことが他の業界でも起こりました。パソコンの誕生に大きく関わったIntelとMicrosoft、携帯電話業界を大きく変化させたApple、放送業界を大きく変えたNetflix、小売業界を大きく変化させたAmazonなどが良い例です。

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