飲食店の人気を左右するのは常識的に考えて「味」ですが、あえてそこで勝負しないという選択肢を取り話題となっているお店があります。今回の無料メルマガ『繁盛戦略企画塾・『心のマーケティング』講座』では著者で繁盛戦略コンサルタントの佐藤きよあきさんが、前代未聞の「味のない焼きそば」を出す専門店の戦略・戦術を解説しています。
「味のない焼きそば」で勝負する専門店とは?
北海道・札幌市に、ちょっと変わった焼きそば専門店があります。焼きそばを注文すると、探さなければ見つからない程度のキャベツともやしが入り、青海苔が掛かっただけの、味つけしていない焼きそばが出てきます。つまり、炒めただけ。
お客さまは、どのようにして食べるのでしょうか。テーブルにはさまざまな「味つけ調味料」が置いてあり、お客さまの好みに合わせて、自身で味つけするのです。「特製ソース」「ラー油」「ソース」「酢」「正油」「キムチ」「焼肉味ソース」「ゴマ酢正油」「特製カレーソース」の9種類+マヨネーズ+紅しょうが。これらを自分の好みでかけて、味つけするのです。
麺の量は、10段階。並(1玉)・大盛(1.5玉)・ジャンボ(2玉)・スーパー(2.5玉)・ミラクル(3玉)・ウルトラ(4玉)・グレート(5玉)・これでもくらえ(7玉)・死んでもしらねえ(9玉)・信じられねえ(12玉)。
トッピングは、玉子・ウインナー・ハンバーグ・カツ・ハムフライ・お好み焼・焼き肉など、15種類。
焼きそばを食べるだけなのに、これだけの選択肢があると、お客さまは迷ってしまいます。麺の量とトッピングを選んで注文し、出てきたら、調味料も選ばなければなりません。こうした「作業」を面倒だと思う人は、このお店を利用しないでしょう。知らずに入ったとしても、リピーターになることはないでしょう。
しかし、このお店は人気があり、長年営業を続けています。このお店のファンは、ここの焼きそばを評価しているということです。美味しいと思っているのです。味がついていないのに。これは、どういうことでしょうか。
その答えは、迷いに迷う、このお店のシステムにあります。お客さまが迷うことで、お客さまの「理想の味」に、より近づくことができるのです。
麺の量は、食べたい分だけ。つまり、適量。トッピングは、自分の好きなものだけ。すなわち、わがまま放題。そして味つけは、自分の好みで自由自在。そんな焼きそばが、美味しくないわけがないのです。
調味料の組み合わせや量を間違ったとしても、その場で微調整できるので、不満に思うこともほぼありません。もし、美味しくないと感じたとしても、それはお店が悪いわけではなく、お客さま自身の責任であることをわかっているので、次の機会には別の味つけにチャレンジしてみよう、と考えるのです。つまり、前向きに積極的に、再来店を決めてくれるのです。
お店にとって、これほどの楽な商売はありません。お客さま自身が、もっとも美味しい焼きそばを作ってくれるのですから。
image by: Shutterstock.com