「家族の一体感」という呪縛。夫婦別姓と犯罪を結びつける人々

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先進国の中で日本のみが義務化されているという、夫婦同姓。「選択的夫婦別姓」についてもさまざまな場で議論がなされていますが、その法制化にはまだ高い障壁があるようです。そんな現状を象徴するような愛媛県会議員の信じがたい発言を自身のメルマガ取り上げているのは、健康社会学者の河合薫さん。河合さんは今回、『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で、その発言がいかに根拠無根かを指摘するとともに、法制化反対派がたびたび口にする「家族の一体感」がどれだけの人間を追い詰めているかを白日の下に晒しています。

※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2020年3月18日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

「家族の一体感」という呪いの言葉

「安易な選択的夫婦別姓は犯罪が増えるのではないか」――。

愛媛県議会で行われた「選択的夫婦別姓制度導入を求める請願」への審査で、自民党の森高康行県議の件の発言により、反対多数で不採択になるという“珍事”が起こりました。

“珍事”?はい、珍事です。だって、この発言の根拠も、真意もよくわからないからです。

(以下、全文)

――いろんなかたちで議論してきた課題ではあるが、子どもの殺人事件等の解説を聞くと、離婚ということで、パートナーとの事実婚が起因した虐待、殺人等が非常にニュースで目につくようなことも最近多いなということを私は感じている。本来の家庭、家族という価値観が日本社会で崩壊しつつあるのではないかと心配もしていて、私は安易な選択的夫婦別姓はより犯罪が増えていくようなことにもなりゃせんかなと心配をもつ立場であるので、より慎重にこのことについてあるべきだということを意見表明しておきたいと思う。――(by 森高氏)

このように「パートナーとの事実婚が起因した虐待」と指摘されてますが、選択的夫婦別姓は「事実婚」では決してありません。むしろ逆です。「選択夫婦別姓が認められないから「事実婚」を選ぶ人は、少なくありません。

また、森高氏は新聞社の取材に対して、「日本社会で離婚が多くなり、本来あった家族の価値観が崩壊しつつある。それが目につくような事件が多い」と答えたと報じられています。「選択夫婦別姓」と「離婚」が、なぜ結びつくのか?その真意はどこからきているのか?まったくもって意味不明です。

つまり、森高氏の思考を整理すると、「選択的夫婦別姓を認める→『離婚』が増える→『事実婚』が増える→虐待や殺人が増える」ということを懸念している、ということなのでしょう。

選択的夫婦別姓については、かねてから「選択的なんだから反対する意味がわからない」という容認派と、「家族が同じ姓を名乗ることで家族の一体感が生まれ、子供たちが健全に育つ」という反対派が対立してきました(反対派の見解は、2009年に自民党の山谷えり子議員を通じて法務委員会に提出された請願書に書かれているので、興味のある方はこちら「選択的夫婦別姓の法制化反対に関する請願」をご覧ください)。

森高氏の「犯罪が増える」という意見の背後には、反対派の「一体感」がなくなるというロジックが存在しているのでしょうが、増えているのは、「同じ姓」を名乗る家族間の殺人事件です。

警察庁によると、2016年に摘発した殺人事件(未遂を含む)は770件で、1979年に比べほぼ半減しました。ところが、親族間が占める割合は44%から55%に増加。実に半数以上が“家族間の悲劇”で占められていたのです。

家族間の悲劇は、2004年以降急激に増えました。

2003年までの25年間は検挙件数全体の40%前後で推移してきましたが、2004年に45.5%と増加に転じ、その後、増え続けているのです。

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