ロシアが仕掛けたチキンレースとパンデミック後の世界
そして、COVID-19の世界的な蔓延は、意外なところでプーチン大統領の権力基盤の強化に役立っているとの見方もあります。その武器は彼の20年にわたる当地で築き上げてきた権力と、3月初めに仕掛けたOPEC Plusの強調の終焉です。
協調減産の下、高い原油価格(先物価格)の維持を可能にし、それがアメリカでのシェール革命を大いに後押しし、アメリカをエネルギー輸出大国に復帰させましたが、ロシア国内からの多重の不満を抑える手段として、3月1日のOPEC Plus会合の場で、ロシアは協調の終わりと増産へのかじ取りを行いました。
ロシアのエネルギー当局の読みでは、そのころ、ロシア政府が目標値としていた原油先物価格は1バレルあたり42ドルであり、協調減産の終焉により40ドルほどまで下降すれば、40ドルを下回ると採算が取れなくなるアメリカのシェール企業に痛手を与えることが出来ると踏んだようですが、ここで予想外にもサウジアラビアが大幅な増産を行ない、他のOPEC諸国も増産で追従したことで、原油先物価格は1バレルあたり20ドル弱にまで下がりました。
この結果、アメリカのシェール企業は操業を中止しましたが、同時に増産と原油価格の著しい下落は中東諸国のオイルマネーの引き上げという2次的なショックももたらし、それがコロナウイルスの蔓延で生まれていた市場への不安と相まって、一気に全世界株安に導くきっかけとなったことはこれまでにもお話ししましたが、これはサウジアラビアとロシア双方にとって、血を流しながら行うチキンレースとなってしまっています。
結果、サウジアラビアでは、ムハンマド皇太子への王位継承のタイミングが遅れるという政治的なリスクを増大させ、ロシアでは憲法改正によって強固になったはずのプーチン大統領の権力基盤の維持のために用いる財源を枯渇させるという恐れを作り出しました。
それにも関わらず、まだこのチキンレースは終わる気配がないのですが、この困った事態で両リーダーが用いた『言い訳』が「新型コロナウイルスの蔓延に対抗するためには強力なリーダーシップが必要」との解釈で、「だからプーチン大統領(ビンサルマン皇太子)の存在が必要なのだ」と見せることで何とか、チキンレースで負う傷のイメージを覆い隠し、ギリギリの線で権力基盤の維持に努めようとしている姿が浮かび上がります。
実際にロシア国内でも、サウジアラビア王国とその周辺諸国でも、新型コロナウイルスの蔓延は大きな恐怖を生み出していますが、その対策の財源を傷つけてでも、体制の維持に走っている危険な賭けの様相が見えます。
新型コロナウイルスの蔓延が収束した暁には、恐らくこのチキンレースで負ってしまった傷が、取り返しのつかない事態を両国はもちろん、中東地域、そして世界のエネルギー事情に大きな悪影響を与えることになるでしょう。これが、いくつかある“今、語られていないCOVID-19がもたらす国際情勢への危機の種”の1つではないかと考えています。
ここまでいろいろな視点からCOVID-19のパンデミックと国際情勢への多重的な影響、そして『新型コロナウイルス後の世界』について見てきました。どうお感じになったでしょうか。
様々な反応やお考えがあるかと思いますが、私たちは現在進行形の新型コロナウイルスの蔓延をいかに食い止め封じ込めるかという世界的な戦争を戦うと同時に、終息・封じ込め後に訪れる世界的な危機にいかに対応するべきなのかについても考え、対策を用意しておく必要があると考えています。
まずは1日も早くCOVID-19の封じ込めができることを切に祈っています。
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