【書評】米国でも中国でもない。日本がインドと手を組むべき理由

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IT人材の宝庫として知られ、2030年までには世界トップクラスの経済大国に駆け上がると言われるインド。そのスピードを加速させているのが、2014年から首相を務めるナレンドラ・モディ氏です。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』では編集長の柴田忠男さんが、そんなモディ氏の辣腕ぶりと、今後日本がインドと手を組むべき理由が記された一冊を紹介しています。

偏屈BOOK案内:広瀬公巳『インドが変える世界地図 モディの衝撃』

dc20200512-1インドが変える世界地図 モディの衝撃
広瀬公巳 著/文藝春秋

「インド人もビックリ!」を知らない人のほうが多いのかな。東京オリンピックの開催、東海道新幹線営業開始、日本がすごく元気だった1964年頃のヱスビー食品のCM。そのインド(って、イントロはムリヤリw)、10年後には中国を上回る世界最大の人口となり、日本、ドイツを抜き世界3位の経済大国になると予測されている。NHK元ニューデリー支局長によるインド最新情勢レポート。

ナレンドラ・モディ。インド北西部グジャラート州の貧村生まれ、叩き上げの政治家、69歳。2014年、第18代の首相に就任、貧しい途上国を一気に主要国に作り変えている男。強いカリスマ性と国民の支持を背景に、全土に流通していた高額紙幣を不使用にしたり、一億個のトイレを作るなど、次々に斬新な政策を打ち出す。日本とは原子力協定を締結、インド西部に新幹線を導入(予定)。

2019年、首相再選。インドは何を考え、どこに向かおうとしているのか。日本の将来を左右し、世界地図を塗り替える政治経済の大国「巨象」の密着レポート。じつに興味深い。インドは今、情報通信の力を他の産業を牽引する力として生かそうとしている。三度目の来日で、日本とインドはAIなどのデジタル分野で新協力関係「日印デジタル・パートナーシップ」を推進することで一致。

GAFA対BATの米中情報戦争の時代である。次世代をリードする技術開発で米中がしのぎを削っている。「こうした微妙な分野で日本が協力関係を深める相手国は、ただ優秀な人材を獲得できるというだけでなく、互いに友好関係や信頼関係のある国でなくてはならない。頼りにできる相手国の選択肢は限られてくる」。その答えがインドだ。インドと日本は戦争をした過去がないのだ。

第二次大戦中にはインド国民軍が、大日本帝国陸軍とともにイギリス軍と戦ったこともある。日本にとって無二の友好国で、民主主義や法の支配といった価値観も共有しているため、こうした国家間の信頼が求められる分野では重要な存在である。なぜインド人は理系に強いといわれるのか。西暦2000年「Y2K」対策、金融機関の決済システムなど、IT分野での目立った成功があるからだ。

IT産業はインフラの開発が遅れたインドの弱点をカバーする、新しい産業だった。先行投資があまりいらず、生産ラインや原材料は必要なく、パソコンがあれば、あとは頭脳だけでいい。世界の最先端産業のノウハウが、ソフトウエア開発委託という形でインドに提供された。そうした経験をもとに多くの技術者が生まれ、その分野におけるソフトウエアの開発を独占する慣行が生まれた。

IT人材大国インドには世界一の難関大学IIT(インド工科大学)がある。受験者約100万人、合格者1万人、競争率100倍、現在23校の大学の総称がITTだ。世界中で活躍するそうそうたる卒業生たち。ITTという、全国規模で激烈に優秀さを競う教育機関のあったことと、貧困からの脱出という強力なインセンティブがあったことが、インドから優秀な技術者が生まれる大きな要因だった。

貧困を動機付けとするなら、アフリカや中南米の人口大国でも同様にIT技術者が生まれてもおかしくないが、そうはなっていない。インドには独自の社会や経済の構造と結びついた背景がある。カースト制度、労働法、そして独自の産業構造である。そこにインド人が優秀とされる本当の理由がある(略)。日本の小学校から高校までプログラミング教育2020年必修化に、インド人の手助けが要らないはずはない。「インド人もビックリ!」の現場を見たい。

編集長 柴田忠男

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