東京新聞が伝えたベトナム「死者ゼロ」は中国への不信感の表れか

 

ベトナムの知恵

【東京】は4面にベトナムについての記事。見出しから。

(4面)
ベトナム「死者ゼロ」経済再開
コロナ抑止、一党支配も強化
「個人の情報発信取り締まる」

新型コロナウイルスの抑止に成功し、経済や社会活動の回復を急ぐベトナムでは、人口1億人を超えるが、公式発表では死者ゼロが続いている。入国制限や外出規制、感染者の隔離が奏功した形だが、一方で共産党の一党支配が強化され、監視と言論統制がさらに進む恐れが指摘されているという。

2月初め、中国との旅客便を停止。村を丸ごと閉鎖するなど隔離にも力を入れたという。感染者数は327人のみ。8割以上が回復済みだという。

●uttiiの眼

迅速な体制が採れた理由として書かれていることが興味深い。「不十分な医療設備への危機感や南シナ海の領有権で対立する中国への不信感」を専門家が挙げているという。

「中国への不信感」は、南シナ海の領有権云々の前に、直接攻め込まれた経験(79年の中越戦争)があり、おそらくは強烈な「不信感」の根になっていることだろう。もう1つの「不十分な医療設備への危機感」というのが本当であれば、まさしく「知彼知己、百戰不殆」で、「彼」は不可知の新型ウイルスだったから「知彼」は困難だったとしても、「知己」、すなわち己(おのれ)の弱点をよく理解していて、それをカバーするための迅速な対応はとることができたことになる。

米国防総省の研究機関であるアジア太平洋安全保障研究センター(ホノルル)の教授によれば、「権威主義の国で、担当副首相らが指導力を発揮し、強硬策で感染を防ぐ戦略を追求した」として、対策に関する政府の情報発信には普段にない透明性があり、国民の協力を得たと評価しているという。

ただ、その「透明性」はコロナ対策限定のようで、言論統制がコロナ禍の間にも強まっていたようだ。昨年、ベトナムでは政府に批判的な情報の削除をインターネット企業に要求できるサイバーセキュリティー法が施行され、この間もフェイスブックに圧力を掛けていた疑いが出ているという。

ベトナム政府が経済活動の再開を急ぐのは、来年1月の共産党大会を前に、体制の安定を図りたいとの思惑があるのではないかというのが記者の指摘。思うに、ウイルスに国境も県境もない以上、どこでも対策を分散的に行いきることはできない。どうしても「集中」の契機が必要になるわけだが、その際に、「集中」を原理にせず、また永続的にせず、時期が来れば「分散」に必ず席を譲り、感染症対策で指導力を発揮した人物も必ず退く…というような原則を立てておく必要があるのだろう。ドイツのメルケル首相の演説などを見れば明らかだろう。

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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