コロナ禍のマスク不足で見えた可能性。アパレルの国内生産回帰

 

3.生産コストより安心安全重視

国内企業が生産した布マスクは1枚1000円から3000円程度であり、不織布マスクに比べれば、かなり高価な製品である。おそらく、マスク生産を始める前に、各企業は悩んだに違いない。布マスクがいくらぐらいで売れるのか、分からないからだ。最初は、社内向けに支給したり、関係先に口コミで販売し、次第に手応えをつかみ、本格的に販売を始めた企業が多い。

安倍総理は自ら提案した「小さめのガーゼマスク」を、小池都知事は「大きめの手作りマスク」を付けて、テレビに登場した。マスクだけを比較すれば、圧倒的に小池都知事のイメージが良かったと思う。大量生産の不織布マスクの販売が回復しても、個性的な布マスクは売れ続けている。ブームとしては終焉を迎えているが、布マスクは新しい生活習慣の中でファッションアイテムとして定着するだろう。

4.マスクから国内生産回帰を考える

マスクを通じ、中国生産について考えた一般消費者も多かっただろう。なぜ、日本は自国のマスク需要に対応できないほど、中国生産に依存したのか、と。また、米中経済戦争が進む中、「日本企業は中国と手を切るべし」という主張も目立つようになってきた。

国内生産から中国生産に移行した目的は、大量生産の維持とコストダウンだった。国内生産から中国生産に切り換えるだけで、商品原価は半額以下になった。日本企業は、安く生産した商品を安く販売することで、顧客は喜び、売上は上がると考えた。初期の段階は、確かに顧客は喜んだ。

しかし、中国生産が当たり前になると、誰も喜ばなくなった。商品単価の下落が売上の下落を招き、日本市場はデフレスパイラルに陥った。中国生産で日本は貧しくなり、中国は豊かになった。儲けたのは商社と大手流通業者だけ。国内の製造業者も問屋も小売店も淘汰が進んだ。気がついた時には、後戻りできなくなっていた。国内生産の商品では、中国生産の商品との価格競争に勝てないからだ。

しかし、今回の布マスクは、国内生産回帰の可能性を与えてくれた。消費者は大量生産の安価な商品だけを求めなかった。国内生産の布マスクは多くがネットで販売されている。問屋や小売店を通したのでは、価格が合わないからだ。生産者から消費者に安心、安全な商品をダイレクトに提供する。そこから新しい時代のビジネスモデルが始まるのかもしれない。

image by: Shutterstock.com

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