深まる謎。なぜ、政府は「イージス・アショア」を中止したのか?

 

アメリカでのコロナ第二波、本当は時間差での第一波

米国全体の新型コロナウイルスの感染状況は決して改善していません。反対に、中西部、南部では感染が拡大しており、一部には「第二波」を懸念する声もあります。ですが、この点に関していえば、現在の感染拡大は「南部と中西部」における「時間差の第一波」だと思います。NYなどが苦しんでいる時期には、まだ感染拡大していなかった地方が、今、ピークを迎えているのです。

その中心は、やはり高齢者向けの福祉施設であるようです。ということは、ここニュージャージーで6,000名が落命したという、悲惨な教訓が中西部や南部には伝わっていないということです。と言いますか、実はニューヨークや、ニュージャージーもそうなのですが、それぞれの施設では「分かっていない」のではないのだと思います。

そうではなくて、感染防御をしようとしてもできない構造というのが、アメリカの場合はあるようです。入所者の家族については、面会禁止、入場禁止をしています。ですが、問題は職員です。施設の職員については、高給が用意できない、そのために大都市の貧困層が主要な担い手になる、彼らは公的交通機関で通勤するか、公的交通機関で通勤する家族と同居している。

その人々からの感染は完全に遮断できない。その一方で、感染拡大期には、病院は若い(60代以下)コロナ患者で手一杯で、高齢者の救命優先順位は下げられてしまう。この悲惨な繰り返しが、各州でタイミングをずらしながら続いているのだと思います。

アメリカの高齢者施設の多くは完全に民営で、NPOではなく会社組織になっています。そのビジネスのスキームは、入居者が利用料を払い続けて、カネがなくなったら「生活保護+高齢者医療費」で残りの利用料を賄うという、絶望的なスキームになっています。従って認知症患者はモノ扱いだし、コロナ対策の設備も人もモノもありません。

つまり、州政府の中に「高齢者を守り切る」とか「医療崩壊を防止して死者の増大をさせない」という気迫と実行力のある人物がいなければ、同じことになるということです。

そこで1つの疑問が湧きます。

ニューヨークはどうして、ここへ来て感染拡大が収束したのでしょう?確かに2万4,000人以上の死者というのは猛烈ですから、この辺りで止まっていいとも思いますが、それほど感染対策、衛生管理が向上したとも思えないのです。ロックダウンの効果という割には、14日ではなく3ヶ月の時間を要したのも不思議です。

もしかしたら、20%の抗体が壁になってR0(再生算数=感染率)を1より大幅に小さくしているのかもしれません。だとしたら、第一波が順次西へ、南へと移動していることにも説明が付きます。カリフォルニアだけは第二波に見えますが、これも第一波が都市部から地方に伝播するのに時間を要しただけなのかもしれません。

いずれにしても、「第二波」に怯えて株価が乱高下していることを含めて、アメリカ全体の「議論の浸透」にはかなり怪しいものを感じます。

image by: 防衛省 - Home | Facebook

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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