6月15日、河野太郎防衛大臣はミサイル迎撃システム「イージス・アショア」の配備計画を停止すると発表。停止から撤回となれば早急に必要となるミサイル防衛の代替案は示されず、ミサイル防衛を担う海上自衛隊及びイージス艦の負担が懸念されています。そこで、軍事アナリストの小川和久さんは、主宰するメルマガ『NEWSを疑え!』で、考えうる代替案を提示。海上の手当に加え、配備予定地だった演習場の活用も含め、具体的な運用法を提案しています。
河野さん、こんな代替案ではどうですか
河野太郎防衛大臣がミサイル防衛システム「イージス・アショア」の計画停止を発表し、コロナ一色だったNHKニュースの構成ががらりと変わりました。
「河野防衛大臣は、新型迎撃ミサイルシステム『イージス・アショア』の山口県と秋田県への配備計画を停止する考えを表明しました。これにより日本のミサイル防衛計画の抜本的な見直しが迫られることになります。
『イージス・アショア』は、アメリカ製の新型迎撃ミサイルシステムで、政府は、山口県と秋田県にある、自衛隊の演習場への配備を計画していました。
このうち、山口県の演習場への配備について、河野防衛大臣は15日夕方、記者団に対し、迎撃ミサイルを発射する際に使う『ブースター』と呼ばれる推進補助装置を、演習場内に落下させると説明していたものの、確実に落下させるためには、ソフトウェアの改修だけでは不十分だと分かったことを明らかにしました。
そのうえで『ソフトに加えて、ハードの改修が必要になってくることが明確になった。これまで、イージスアショアで使うミサイルの開発に、日本側が1100億円、アメリカ側も同額以上を負担し、12年の歳月がかかった。新しいミサイルを開発するとなると、同じような期間、コストがかかることになろうかと思う』と述べました。(後略)」(6月15日NHKニュース)
自民党国防族をはじめとするイージス・アショア推進派の皆さんからは不満が噴き出し、このあとどのように収拾するのか、河野さんの政治家としての腕の見せ所です。
今回は、専門家の端くれとしてどのような代替案が現実的なのか、考えてみたいと思います。ぱっと頭に浮かぶのは、米海軍のイージス艦の活用です。米海軍は全体で89隻あるイージス艦のうち39隻を弾道ミサイル防衛(BMD)対応艦として、中国、北朝鮮などの弾道ミサイルへの防衛に充てています。BMD艦は2021年9月までに48隻、25年9月までに65隻に増やされる予定です。このうち常時2隻を、日本側の経費負担によって秋田県と山口県沖の日本海に展開できれば、日米同盟強化の枠組みの中で最もスムーズでしょう。
しかし、米国側にも事情というものがあります。虎の子のBMD艦ですから、そう簡単に日本周辺海域に常時2隻を配備することができるかどうか。その場合は、BMD艦ではない米海軍のイージス艦4隻を借り受け、それにBMD能力を備えるための改修を日本側が行うのです。
運用に当たる人員は、米海軍の現役に頼るのではなく、その目的のためのPMC(民間軍事会社)を米国政府の承認のもとに設立するか、既存のPMCにBMD艦運用のための部門を新設し、米海軍の経験者を募るのです。
このようにすれば、常時2隻を秋田県と山口県沖に展開することも可能になりますし、人員不足に頭を抱える海上自衛隊へのしわ寄せも防げるのではないかと思います。
同時に着手しなければならないのは、日進月歩するレーダーシステムなどへの手当です。これについては、それこそ秋田県と山口県のイージス・アショアの配備予定地だった演習場内にレーダー施設だけを建設し、どんどん技術革新に対応する手を打ちながら、沖合のBMD艦の能力を上げていくのです。レーダー施設だけであれば、ブースターの落下の問題はなくなります。
専門家の中にも、ブースターの落下に対応できるよう、これまでの予定地周辺の用地買収を進めることを提案する向きもありますが、私は現実的ではないと思います。国土が狭い日本です。用地買収となれば、法制度的にも様々な制約が伴いますし、そこに人間の欲が絡んでくるのは必定で、何年かかっても前に進まない恐れがあるからです。
とにかく、これだけの決断をした河野防衛大臣ですから、上記のような代替案で早急にミサイル防衛能力を向上させてもらいたいと思います。(小川和久)
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