「適材適所」は人事の基本中の基本ですが、なかなか理想通りに行かず、結果として社員を追い詰めているというケースも多々あります。そのような事態を避けるため、経営者や上司はどのような点に気を配るべきなのでしょうか。今回の無料メルマガ『飲食店経営塾』では飲食店コンサルタントの中西敏弘さんが、実際にあった事例を挙げ、個人の能力・容量を「コップの大きさ」に例えて理解する方法を紹介しています。
部下のグラスから、水が溢れだしていませんか?
店長のB君は、経営者Aさんのお気に入り。B君はA社長にすごく忠実で、言われたことには何でも応えようとします。そんなこともあって、A社長はB君をこれまですごくかわいがっていました。ただ、思うように業績も伸びないこともあって、僕がコンサルに入ることになりました。
方針を明確にし、勉強会を通して、仕事のあり方や経営の考え方、マネージメント、計数管理等のあり方をスタッフの皆さんに学んでいただいていました。また、それと同時に、店長に対しての仕事を次々に明確化していきました。僕がコンサルに入る前は、店長の仕事と言っても明確化されておらず、大袈裟に言えば、「オペレーションさえ回せていればいい」という感じでした。しかし、店長に対して、
- FLコントロール
- 毎月の予算策定
- 毎月の行動計画の策定
- 毎日の日別予算の策定と各スタッフへの目標設定
- アルバイトとの面談
- 店舗ミーティング
- 商品開発(自分の作りたいものではなく、コンセプトをもとに開発する)
などなどの業務をやってもらうことになり、他の店長は少しずつですが、これらの仕事をこなしていきました。
しかし、B店長は、なかなか思うように仕事がマスターできず、また、やっていることや他の社員に対してのことばも、どうもトンチンカン…。
僕は、B君の仕事に疑問を持つようになりました。A社長が言うほど、仕事ができないのです。僕は、すぐに人を評価しませんが、結構たくさんの人を見てきているので、2、3ヶ月仕事内容を見ていると、「この店長は仕事ができる人」というのは、ある程度分かります。なので、A社長に進言しました。
「B店長、頑張っているけど、この先、マネージャーをやったりすることは難しいかもしれませんね…」
「そうですか…」
と肩を落とし気味に話していました。とは、言いつつ、B君はA社長にとってお気に入り。なんとかして、B店長を育てたい、行く末は自分の右腕にしたいという思いから、B君への対応がどんどん厳しくなっていきました。
「なんでこれぐらいのことできないんだ!」
あまりの厳しさに、周りのスタッフが引くぐらいなのですが、社長の言動に引いたのではなく、B店長への肩入りがすぎることに、周りのスタッフは引いていたのでした。周りのスタッフも、以前は、「B店長は出来る人」とどこかで思っていたのですが、今は、仕事内容が少しずつ明確になってきて、B店長が仕事ができないということに、みんな気づき始めていたからでした…。
ある日のミーティング。社長は、「〇〇ぐらいは、やってもらわないと困りますよ!」と僕に話しました。
「なるほど。確かに、B君にやってもらわないと困るかもしれませんね。でも、B君が“できるかどうか”を考えることも必要ではないですかね?
B君への社長の気持ちは痛いほどわかりますが、B君の負担にはなっていないですか?彼は、社長の期待に応えようと必死ですが、でも、実際は、厳しいようですが、これらの業務をこなす力(能力)はないですよ。
B君の能力は、コップで例えるなら、この小さなグラスぐらいです。でも、社長はB君の容量は、ビールジョッキぐらいあると思ってどんどん水を入れていますが、彼の持っているグラスはこの小さなグラスなんです。だから、もう、グラスから水が溢れている状態なんですよ!期待するのは分かりますが、彼の能力にあった仕事を与えた方が、彼も彼らしさを発揮できるのではないですかね?」