トランプは負け戦。米国の国連無視を嘲笑う中国のワクチン外交とは?

 

ポスト・コロナの世界での覇権拡大に乗り出している中国

今週、国連の場で進められた取り組みには、今年ならではの新型コロナウイルス感染症に対応する国際的な枠組み、特にワクチン開発と普及を目指したCOVAX Facilityの設立に156か国が賛同したことがあります。

この取り組みには、すでに独自にワクチン開発を行っているアメリカ(15億回分を今年中に確保とのこと)、中国(5億回分のワクチンを確保し、今後もワクチン外交を一帯一路国のみならず、広く展開することで支持取り付けをする)、そしてメディアを通じて、効果があった!との報道がなされたロシアは不参加ですが、2021年までに(つまり今年中には)20億回分の提供を行うことを目指す国際協力は、恐らく【国際主義の最後の望み】と言えるのではないかと思います。

アメリカやロシア、中国が参加しないことに、テドロスWHO事務局長は「ワクチン国家主義はかえってCOVID-19の脅威を長引かせる」と批判していますが(そして彼の出身国であるエチオピアはしっかり中国とべったりで、中国産のワクチンの無償優先提供国に指定されていますが)、米中露がいないことで、日本やEUが主導権を発揮できた成果との評価も高く、“今年中に本当に20億回分のワクチン提供ができる”のなら、国際協調陣営も混乱の中で復活してくると思われますが、果たしてどうでしょうか。

COVAX Facilityの設立に湧く間も、中国は着々とワクチン外交を加速させ、時にはWHOの味方・守護者のふりをし、また時には債務問題とワクチン問題をセットにした合わせ技的な新しい外交戦略で、国際社会における親中派を拡大させています。

例えば、カンボジア、ミャンマー、ラオスというASEANの親中派に加え、南シナ海問題では対立しているフィリピンやベトナム、インドネシアからの支持もワクチンを餌に釣り上げ、アメリカが求めたASEAN外相会議での対中批判を否決させました。

アフリカでは、すでに深く入り込み、影響力を確立しているエチオピアや隣国ジブチをハブにして、ワクチンと一帯一路によるインフラ支援というパッケージで勢力拡大を行っています。今でも中国脅威論は根強く残ってはいるものの、すでに中国の影響力に絡めとられ、今、国際舞台(特にUN)で中国を批判するアフリカ諸国はほぼ皆無になったと言われています。

中東諸国においては同じく、従来からのエネルギー外交に加え、ワクチンを組み合わせることで、欧米がこだわる新疆ウイグル自治区での人権問題に対しても、「中国の施策を全面的に支持する」との言質を国際舞台で取ることに成功しています。詳しくは先週号(「世界を“麻薬漬け”にする中国。菅総理は対中依存から脱却できるか?」)でも書いていますので、そちらを再度お読みいただければと思います。

結果、UN総会の首脳ウィークのタイミングで打ち上げられたCOVAX Facilityには参加しないもののバックサポートを与え、自国のワクチン外交と合わせて、着実にポスト・コロナの世界での覇権拡大に乗り出しているのが中国です(一般討論演説では、アメリカの覇権主義を暗に否定していましたが)。

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