トランプは負け戦。米国の国連無視を嘲笑う中国のワクチン外交とは?

 

一般討論演説で面子を保った中国とイラン

中国を名指しで批判するトランプ大統領に反し、中国の習近平国家主席は、名指しでの対米批判は封印しつつ、(コロナという)世界的な問題を不必要に政治化することは慎むべきと暗にトランプ大統領によって矢継ぎ早に放たれる批判の“矢”にきちんと対抗する姿勢を示したと言えるでしょう。

またアメリカとは逆に、UN中心での国際協調の重要さを何度も強調し、その中で中国が主張的な役割を果たす用意がある、というようにしっかりとアピールも行いました。国連機関のトップポストを占めることが多くなったという現実も反映した発言かと思いますが、威嚇を続けるアメリカに対し「熱戦も冷戦も望まず、あくまでも対話による解決が必要」というように、フランスのマクロン大統領やフィリピンのドゥルテ大統領などから提示された「米中による二極対立主義が力による対立に発展することへの強い懸念」にしっかりと答えておくことで、【威嚇を仕掛けて問題をややこしくしているのはアメリカ】というイメージを打ち出そうとしたようです。実情はどうか知りませんが、一応、【国際主義の庇護者】というイメージ付けには成功したようです。

同じく今回の一般討論演説で面子を保ち、かつ味方を増やしたと思われるのが、イランのロウハニ大統領です。

今年に入り、1月3日には英雄であるソレイマニ司令官をアメリカに殺害され、最近では、アメリカとイスラエルによってアラブ周辺諸国を巻き込んだ対イラン包囲網の強化が急ピッチで進められる中、イスラエル(アメリカ)との開戦が近いという見解が国内外で強まっていました。

しかし、粘り強い外交努力(特にザリーフ外相とアラグチ外務次官による働きかけ)が実り、アメリカが批判する核合意の他の当事国(中・ロ・フランス・英国・ドイツ)から「核合意の内容は有効」との言質を取り付け、離脱したアメリカが口を出す権利はないとまで言わせることに成功しました。結果、ちょうどロウハニ大統領の一般討論演説前に「アメリカ主導の対イラン制裁には(イスラエルを除き)EUや日本、カナダといったアメリカの同盟国が参加しない」という合意を得ることが出来、結果として、後には引けないアメリカが単独での対イラン制裁に乗り出すという、アメリカにとっては非常に格好の悪い孤立の事態を作り出しました。

それに加えて、トランプ大統領が自画自賛したイスラエルとUAE・バーレーンとの国交正常化ディールも、各国のイランの実力に対する恐怖心が共通しているとはいえ、安全保障上の内容というよりは、どちらかというと資源を得たいイスラエルと、イスラエルのITや医療部門での最先端技術への投資を通じ、その果実の分け前が欲しいとするUAE・バーレーンの経済的な利益を叶えるための内容と言えるため、イランにとっては、アメリカがアピールするほど、対イラン包囲網は強まっていないというキッカケを与えたように考えます。

さらに、イスラエルとUAEなどが固く結ばれているわけではないことが露呈したのが、アメリカがUAEにF35戦闘機を売却するとの合意に対してイスラエルのネタニエフ首相が猛反対したことで、「まだ信頼関係は醸成されていない」ことが分かりました。ロウハニ大統領が「アメリカ主導のイスラエルとUAE・バーレーンとのディールは茶番」と言い放ったのが、ただの強がりでないことがこれでお分かりになるでしょうか。

とはいえ、過去の例にもあるように、アメリカは単独でも開戦に踏み切る可能性があり、対中国(@南シナ海)や対北朝鮮の開戦とは比べ物にならないほどの嫌イラン感情がイラン革命時のアメリカ大使館人質事件以降米国内に強く残っていることと、これまでに「大統領・政権の支持率浮揚のためのベストなカンフル剤は“偽りの大義”を掲げた戦争」という例もあることから、イランとしてはトランプ大統領による対イラン攻撃の可能性は排除できない状況であることも確かです。また、今回の中東でのディールは、トランプ大統領にとっては大統領選挙対策、ネタニエフ首相にとっては国内の反対派封じと自身の訴追逃れにつながるとの考えから、対イラン戦争の地ならし的な要素があるのではないかとの見解があることも否定できません。ただ、その懸念を、バーチャルな形ではあったにせよ、国連総会の一般討論演説で世界に訴えかけることができたのは、他国からのアクティブかパッシブかは別として、サポートを得るきっかけになったのではないかと思います。

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