中国包囲網は日本の国益。なぜ親中ドイツは習近平を見捨てたのか?

 

ASEANの親中国ですら習近平政権に懸念を表明

この流れは、これまでブリュッセルをはじめ、北西の裕福な欧州に対抗してきた中東欧諸国もChina Feverから目覚め、マスク外交への謝意は示しつつも、中国による世論と政治のコントロールを警戒し、EU内でのわだかまりを横において、欧州一体となって中国切りに参加することにした模様です。

その結果、【インド太平洋戦略】を旗印に日米豪とASEANに接近することで外交的な方向性を転換し、EUのアジアシフトが加速しています。

【中国に威圧されない、自由で開かれた地域の維持】を謳う日米の“インド太平洋戦略”に欧州が参加することになりました。

この背景には、英国のTPP参加への関心の高まりと加盟交渉の開始、フランスの安全保障政策のアジア展開とインフラ整備のパートナーを中国から日本に転換するという政策上の転換、そしてドイツの中国一辺倒からの脱却があります。

結果、EU各国は、「中国によるtoo muchな圧力に人々の自由が侵されてはならない!」との精神の下、経済・貿易の多様化を兼ねて、ASEAN/アジア太平洋諸国とのパートナーシップを強化し、次の世界経済発展のパワーハウスとなるインド太平洋地域における権益の確保と影響力の獲得に動き出しました。

これに加えて、年々中国の食指が伸びている南太平洋の欧州の権益獲得という地政学的な思惑も見えてきます。例えば、referendum(国民投票)を行ってフランスからの独立の是非を問うニューカレドニアや、英国の影響がまだ強く、地域・島ごとに州首相を置くソロモン諸島の分離独立運動などへの中国の影響力の波及を、EU各国は危惧しています。

これらが独立した場合、単独での経済活動は無理だと考えられ、そこに膨大な中国の経済力を投入することで、南太平洋において中国が影響力を拡大することに懸念を持っているということになります。そしてこの懸念は、オセアニアのオーストラリアとニュージーランドも共有し、今、インド太平洋戦略を、別名【対中国防衛網】と位置付けて、中国包囲の幅が大きく拡大してきました。ゆえにフランスや英国がインド太平洋における合同軍事演習への参加を拡大したり、自由で開かれたインド太平洋での協力構築と中国に対する抑止力拡大のため、日米豪インドと協力した枠組みを近く構築したりすると言われています(Xデーとされるのが、10月6日に東京で開かれる予定の日米豪印のインド太平洋パートナーシップ外相会合と言われています)。

では、これまで親中派と対中ハードライナーが併存し、組織としての対中政策を決めることが出来ずにいたASEAN(東南アジア諸国連合)はどうでしょうか。

ASEAN諸国に共通しているのは、【中国との経済的な結びつき】や【受ける恩恵については重視】するが、【南シナ海を舞台にした中国の傍若無人な強硬姿勢に対しては深刻な懸念を有する】という点です。これまでは、カンボジア・ラオス・ミャンマーという超・親中国のグループは、国際社会、特に欧米諸国を中心とする支援国から、人権問題を盾に支援を断られたり、条件の見直しを求められたりしてきた国ですが、そんな内政干渉または価値観の押し付けにも思われるようなことは“一切気にせず”、ただ単に経済的な利益だけで支援をしてくれる中国はありがたい存在でした。ゆえに、国際社会において中国の人権問題などが大きな批判に晒される際は、外交的にことごとく中国支援に回ってきました。それは、ASEANにおいて、中国に厳しい態度で臨むべきという対中ハードライナー国(ベトナム、インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピンなど)に対抗して、中国に対する制裁などには反対してきた要因です(そしてASEANを機能不全に陥れました)。

ところが南シナ海において中国の軍事化が進み、それにアメリカが予想以上の反対を示したことで、米中の直接的な武力衝突が起こるのではないか、との恐れから、中国に自制を求めるうえで、先月中旬辺りから親中国でさえ、懸念を表明するようになってきています。

それには【アメリカの影響力を地域に再度引き込みたい】との思惑もあり、米中双方と“適切な”距離を保つことで“逃げ道”を確保しようという思惑が透けて見えます。ちょうどアメリカ大統領選挙に向けた時期と重なるおかげで、今のところ、米中双方から「どちらかを選べ」というような圧力は小康状態と言えるかと思います。

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