以上から明らかなように、米政府はハバナ症候群をキューバのせいにできなくなると、関心を失っている。一方、米中貿易交渉はトランプ政権の目玉政策だったので、その実務を担当する外交官を、広州の総領事館に症候群が広がったからといって、帰国させることは都合が悪かった。
ハバナ症候群の原因はロシアの攻撃の疑いが濃厚だ。モスクワの米大使館は1975年から79年まで、ソ連当局によるマイクロ波の照射を受けた。全米アカデミーズの報告書は、人体への「パルス状の電波の影響に関するロシア・ソ連の重要な研究」に言及している。電波だけでなく、プーチン政権は外国で政敵を毒殺してきた。
しかし、トランプ大統領はロシアの有害活動の情報を全部否定し、報告・報道した者を敵視してきた。それはロシア当局に弱みを握られているからだという見方もあるが、あたかもその情報が、自分の大統領当選はロシアの干渉のおかげだったという主張を裏付けるかのように認識して、否定しているようにみえる。
今週明らかになった、米政府のデータへの大規模な不正アクセスについても、トランプ氏はそのように反応している。ポンペオ国務長官は12月18日、「明らかにロシアのせい」と述べたが、トランプ氏は翌19日、「つまらない主流メディアは、何かあればロシア、ロシア、ロシアという。中国がやった可能性は、商売上の理由でいえないのだろう」とツイートした。
政治ニュースサイト『ポリティコ』は9月23日、ハスペルCIA長官が、大統領を怒らせないため、ロシアの動向の報告を減らしているという、CIA職員らの見方を報じている。
そのような対応は、トランプ氏のさらなる攻撃からCIAや国務省を守るためだったかもしれないが、外交・情報関係の人材確保の点でも、ロシアに対する抑止力維持の点でも米国の国益を損ねている。(静岡県立大学グローバル地域センター特任准教授・西恭之)
参考文献
National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine. 2020. An Assessment of Illness in U.S. Government Employees and Their Families at Overseas Embassies. Washington, DC: The National Academies Press.(在外大使館における米政府職員および家族の疾病の評価) https://doi.org/10.17226/25889.
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