五輪はますます無理だろう
3月には日本でも医療関係者、高齢者を先頭にコロナワクチンの摂取が始まることになっているけれども、それが夏に向けて目覚ましい勢いで全国民に普及するとは到底考えられない。副作用の検証をほとんど無視するというリスクを冒して逸早く摂取を始めた米国でも、トランプ大統領が「年内に2,000万人」と宣言して国民の安心を買おうとしたというのに、実際には100万人程度で年を越しているのを見れば、事は口で言うほど簡単でない。従って、ワクチンは東京五輪を救う決め手とはならない。
その状況で、3月25日には「聖火リレー」を福島からスタートさせなければならない。スタートした以上、どこか途中で「やっぱり無理そうなので中止します」とは言えないので、ここは先々の見通しなしに「エイヤーッ」で突き進んでしまうのかどうか、大きな分岐点となる。他方、内外の選手団やアスリートにとっても、3月は五輪参加か否かを決断する最終リミットで、日本国内各地で事前合宿を予定しているチームも4月からは続々来日する。その時までに日本のコロナ状況が落ち着いているという保証は何もなく、また当該の外国アスリートの安全をどう確保できるのかの対策も描けていない。
もう1つ、3月には「東日本大震災」から10年という大きな節目が訪れる。2013年ブエノスアイレスIOC総会で、安倍が「スーパーマリオ」の衣装で登場するという馬鹿丸出しの電通仕掛けに悪乗りした挙句、福島第1原発事故は「アンダー・コントロール」されているという世紀の大嘘をついて、東京招致を訴えた。ところが、実際には同原発の敷地内には、トリチウム混じりの汚染水が現在137万トンも溜まっていて、漁協はじめ地元の絶対反対を押し切ってこれを海中放出しなければならない。仮に東京五輪が無事開かれたとして、その取材に世界中から訪れた記者たちの少なくともまともな感覚を持った幾人かは「ところで、これ『復興五輪』と言われていたはずだが、福島の現状はどうなっているのか」に関心を注ぐだろう。
安倍の大嘘がバレないようにするには、汚染水の海洋放出を1月中にも“決断”しなければならないが、10年間風評被害に苦しんできて、今なお事故前の2~3割安で魚を売ることを余儀なくされている漁師たちは絶望的な反抗に打って出るだろう。その大騒動の最中に、福島から聖火リレーがスタート?もう何もかも辻褄が合わなくなる。
(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2021年1月4日号より一部抜粋・文中敬称略)
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