ブラック企業アナリストが暴露。日本人の給料が上がらない複雑な事情

 

(2)一度給与を上げたら下げにくい、日本的雇用慣行

本来、業績が芳しくない従業員の給与を下げることは企業の人事権として当然のことであるはずだ。しかし日本においては「年功序列で給与が上がっていく」という前提で雇用され、賞与や社会保険料、退職金等は基本給をベースに決まるため、賃下げに対して労働者や組合は猛反発する。また労基法でも賃下げは「不利益変更」扱いとなるため、よほど根回しをしっかりとおこない、丁寧に説明しないことには簡単に下げられないのだ。

給与が機動的に下げられない以上、給与アップにも慎重になってしまう、という悪循環が起きてしまうわけである。

(3)株主重視の姿勢

企業が生み出した利益は、給与など人件費に投資するよりも、株主への配当原資や設備投資など「成長資金」という名目にするほうが株主からのウケがよいという事情もある。

(4)厳しい解雇規制&金銭解決困難な仕組み

たとえばアメリカの場合、社員は日本と同じ無期雇用でありながら、「At willの原則」があるため、成果を出せなかったり、素行が悪かったりする従業員を企業は自由にクビにできる。一方で日本は解雇について大変厳しく、「人員整理の必要性」「解雇回避努力義務の履行」「被解雇者選定の合理性」「手続の妥当性」という4つの要件を満たし、「客観的に合理的」と認められない限り実質的に解雇不可である。

正社員の解雇が難しいとなると、リスクヘッジのため高い給料は払えない。またクビにできないからこそ「間違いない人材だけを厳選して採用したい」となるため正社員の採用ハードルも上がる。そして再就職が難しければ、たとえ薄給のブラック企業でもクビにならないようしがみつこうと努力してしまう。すべてが悪循環になってしまうのだ。結果的に、クビにしやすく、給料も安くて済む非正規へと雇用が流れてしまうのである。

また、解雇を金銭的に解決(一定のお金を払うことで円満解雇に至ること)ができればまだ話が早いのだが、現行の法律ではそれも不可能である。日本の労働法においては、解雇の金銭解決制度がないため、裁判では「解雇が無効である」と主張して会社と争うことになる。そのうえで仮に解雇が無効になったのであれば、問題社員との雇用契約はずっと残っていたことになり、会社は解雇してから、解雇無効の判決が出るまでのすべての賃金を払い、しかも問題社員は会社に職場復帰(復職)することになってしまうのである。

実際の裁判では最終的に金銭で和解をするケースが多いのだが、一旦「会社への復職を求めるフリ」をしないと和解金額が大幅に下がってしまうため、本音ではその気が全くなくとも、復職を希望しないといけないという茶番劇が必要なのだ。

これではお互いにお金も時間もムダになってしまう。なんとか前向きな円満解決を促す制度ができてほしいところだ。

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