「JAL職員が巫女」の美談に疑問。従業員シェアの隠れた落とし穴

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昨今、コロナ禍で人員の余った企業が人手不足の企業に人員をシェアする「従業員シェア(ワークシェアリング)」が盛んにおこなわれています。JALが女性従業員を神社へ「巫女」として出向させたことが話題となるなど、一見「Win-Win」の関係に見えますが、この流れに「待った」をかけたのが、メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』の著者で米国在住作家の冷泉彰彦さん。冷泉さんは、こうした正社員の出向が「非正規の雇用を奪う」と指摘し、それほど長い経験や複雑な研修が必要ない業種への出向は非正規に回すべきだとして、その理由を分かりやすく解説しています。

非正規を押し出す「従業員シェア」の大問題

コロナ禍で一時的に余剰人員が発生した企業から、人手不足の企業へ人員を異動させる「従業員シェア」が活発化しています。既にANAから学校現場に教員を派遣するという話が出ていましたが、あれは硬直し閉ざされた学校という空間に新風を吹き込むという意味でメリットの感じられる話でした。

ですが、JALが打ち出した女性従業員を、「巫女」として異動(出向)させる、とか、報道によればJTBは、農業現場へ、ヒルトンホテルのグループは、フェデックスなど流通業へ人材を異動させているようです。

こうした「人員シェア」ですが、「送り出す企業」は雇用維持とコスト抑制ができる。「受け入れ企業」は労働力を補うことができる。また、「従業員も収入を得られる」ので全員にメリットがあるなどという評価もあるようです。

ちょっと待っていただきたいと思います。

コロナ禍の影響は、各方面に及んでいます。そこで発生している大きな問題は、「正規労働者は雇用が保証されているが、非正規は守られていない」という問題です。コロナ禍の中で、非正規はコスト削減のバッファーにされているだけでなく、きままに「その日の流れで対面で業務を指示したい」のでリモート禁止だとか、様々な危険と差別に晒されています。

そんな中で、巫女とか、農業や物流の現場というのは、仮に人手不足であれば非正規のポジションとして求人が発生する部分となります。全くの畑違いの業界から出向した人物でも勤まるということは、要するにそれほど長い経験や複雑な研修は必要ないわけで、そうしたポジションは非正規に回すべきです。

まして、一流の大企業の正社員を受け入れるというのですから、コスト面は企業間の交渉になるにしても、例えば勤務時間などは、そんなにブラックな条件ではないはずですから、非正規と変わらないはずです。

ということは、出向者を受け入れることで、その職場では非正規の雇用機会を奪っているということになります。

更に言えば、その現場に元からいた労働者にとっては、例えば神社の巫女、農業や物流の現場での給与より、給与が高い水準の人材が一緒に同じ仕事をすることになります。これは現場のモチベーションとしいう観点から見て、決して健全な状況ではありません。こんなことが、雇用維持の美談だというのは、大いに疑問だと思うのです。

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