ホンマでっか池田教授が懸念、GPS利用が「認知症」を加速させる可能性?

 

私は18歳の時に免許を取って以来、55年間、車の運転をしているがカーナビが搭載されるまで、自分の記憶力と地図だけが頼りであった。ところで、地図は紀元前2000年頃、中国とバビロニアで世界図が作られたのが嚆矢らしい。現存する世界最古の粘土板の世界図は紀元前700年頃、バビロニアで作られたものだ。道路地図はローマ帝国が作ったものが有名で、おそらく軍事上の理由で作られたのだろうが、今日われわれが用いる道路地図と同じように、道路の接続関係や都市、宿場、目印などが記されている。ローマの人々はこの地図を頼りに旅をしたのだろう。

それでは、地図を持たないさらに昔の人類は、何を目安に方向を探り当てていたのだろうか。人間以外の動物の中には方向感覚が極めて優れているものがいる。渡り鳥や蜜蜂などがとくに有名である。渡り鳥は、長い間、太陽や星座の位置を頼りに渡る方向を決めると言われていた。私が山梨大学に勤めていた時、同僚で鳥類学者の中村司先生は、実験室に小型のプラネタリウムを設置して、渡り鳥が本当に星座を頼りに飛ぶ方向を決めているのかどうか研究していた。40年も前の話で、まだ鳥が磁場を察知する体内コンパスを持っているという説は、エビデンスがないとして大方の研究者には受け入れられていなかった頃だ。

最近になって、鳥の網膜にある青色光受容体が磁場を感知しているという研究結果が発表され、その候補としてCry4(クリプトクロム4)が挙がってきた。おそらく渡り鳥は体内コンパスをメインの道具として使い、太陽や星座を補助的に使い、細かい位置を知るためにランドマークを覚えているのだろう。

ヒトも潜在的には磁場を感じているという報告もある。被験者に外部の磁場を完全にシャットアウトした、人工的に磁場を作り出せる部屋に入ってもらい、暗闇のなかで磁場の向きを変える実験を行ったところ、地磁気逆転のシミュレーションで、脳波のアルファ波の振幅が減少した人が34人の被験者中4人いたということだ。この人たちには再現性があり、何か月か経ってやっても結果が同じになったという。アルファ波は安静にしている時に発せられる脳波で、急に刺激を与えられたり、考え事をしたりすると減少することが分かっているので、アルファ波が減少したということは、磁場の変化を脳が感じ取っている証拠になる。但し、「磁場の変化に気づいた」という人は誰もいなかったとのことだ。

ヒトも大昔は磁場を意識的に感じる能力を有していたのかもしれないが、いつからか行き先を決めるのに磁場を頼らなくなって、その能力を喪失したのかもしれない。オサムシの翅の退化を研究している大澤省三先生によれば、ラマルクの用不用説の、用の説はともかく不用の説は正しいということなので、人類もまた、定住生活をしているうちに、磁場を意識的に感知する能力を喪失したというのはあり得ない話ではない。

print
いま読まれてます

  • ホンマでっか池田教授が懸念、GPS利用が「認知症」を加速させる可能性?
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け