軍事アナリストが指摘する「2月8日の真相」海自潜水艦事故で何が起きた?

 

2008年7月末、私は続発する防衛省・自衛隊の不祥事に関する検討会に招かれ、石破茂防衛大臣(当時)から意見を求められました。その中で海上自衛隊については、事故・事件などの不祥事が艦艇の部隊で発生していること、その背景には艦艇勤務を嫌う若い隊員の問題があることを指摘しました。

一般社会の風潮に自衛隊も無縁ではいられません。企業などの若手社員と同様に、自衛官も定時に出勤し、夜は必ず自宅に帰る勤務パターンを望む傾向は避けられません。出港したら、任務によっては長期間、自宅を留守にする艦艇勤務は嫌われ、それが嫌で退職する隊員もいるほどです。そうなると、いま艦艇に勤務している隊員を大事にしなければ海上自衛隊の機能を維持できず、当然のこととして訓練に手心を加えたり、多少の規律違反にも目をつぶったりする傾向が生まれてきます。それが不祥事や事故につながったのです。

個々の不祥事について具体的に問題を指摘したあと、私は艦艇部隊の半分を女性隊員にするほどの改革が必要だと提言しました。女性は、ほかの組織に比べて自衛隊が最も処遇面などで男女の格差が少ないことを知っており、有能な人材が集まりやすい。出産、育児など人生設計のバックアップが充実する中では、艦艇部隊の質を維持するうえで新たな打開策になるのではないか、というものです。

横にいた赤星慶治海上幕僚長が熱心にメモをとっていたのが印象的でした。赤星さんの考えていたことと重なっていたのだと思います。その直後、赤星さんは既に建造が始まっていた大型護衛艦「ひゅうが」に女性用の個室17室を設置するよう命じました。

護衛艦の女性の比率は20%を目標とされ、私が「ひゅうが」を案内してもらった2013年11月時点でも10%を超え、新しい戦力として期待が高まっていました。艦艇部隊への女性の配置はどんどん進み、護衛艦の艦長はもとより護衛隊司令まで誕生するに到っています。潜水艦への女性の配置も解禁されました。女性の進出は単に少子高齢化対策にとどまらず、自衛隊の水準を維持するうえでも不可欠で、新たなモデルも次々に生まれていくと思います。もちろん、潜水艦部隊が抱える課題も改善の方向に進むことは間違いないでしょう。

世界有数の海上自衛隊の対潜水艦戦(ASW)能力は水上艦艇、哨戒機、潜水艦の三者で成り立っていますが、今回の事故を契機として潜水艦部隊の能力回復が進むことを期待しています。(小川和久)

image by:viper-zero / Shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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