習近平の一人勝ち状態か。たった10年で全世界を覆った中国の紅い影

 

漂流する欧州―パワースポットへの回帰の夢と凋落してゆく現実

この10年で凋落が激しかったのは、恐らく欧州でしょう。経済的には、さほどひどくないにせよ、統合によって享受できると信じられていた利益は得られず、低迷を続けました。

メルケル首相によるリーダーシップが長年続いたドイツは、欧州の中でも比較的に成功を収めた例と言えるかもしれませんが、イタリア、スペイン、ギリシャ、ポルトガルといった南欧諸国は、ユーロ圏に留まるための条件を満たすのに大変苦労し、一時はデフォルトの危機まで叫ばれる始末でした。

その南欧諸国がスランプに陥るために、EUとユーロを救うために、口も出すが金もしっかり出してきたのがドイツです。そのドイツも、そろそろ堪忍袋の緒が切れる寸前まで来ていたのが、この10年間の状況です。

同じく欧州でリーダーを自任するフランスは、発言力は大きいものの、自国経済は火の車といえ、こちらも南欧同様、デフォルトするのではないかと囁かれ、安定した運転を続けるドイツに比して負い目を感じるような10年だったといえます。サルコジ、オランド、マクロンと、メルケル独首相とのパイプを用いて関係を良好にすることで、何とか持ちこたえてきた10年間です。

うまくいきそうに感じ始めた欧州の統合を、再び奈落の底に叩き落したのが、“名誉ある孤立”を貫いた英国によるBrexitです。

英国はずっとユーロに加わらなかったのみならず、いつも目は大西洋の向こう側を見つめる特殊な状況にありましたが、ついにBrexitを紆余曲折の末、完遂しました。

ただし大きな混乱と失望という置き土産を残して。

そして、とことん欧州を苦しめ、今も苦しめているのが“シリア難民”問題です。ドイツの音頭で欧州各国がシリア難民を受け入れる中、EUで犯罪が多発し、一気に移民排斥に振り子がフラれることになり、それによって欧州各国の政策上のcredibility(信頼性)が失われたといえます。

環境政策やESG/SDGsといった面でリーダーシップを取り、欧州の存在を世界に“もう一度”知らしめようと、パワースポット・パワーハウスとしての再興を期しているようですが、それも厳しすぎる環境政策に反旗を翻すポーランドやハンガリーなどの東欧諸国に反対されて、徹底できていません。

私も長年、気候変動交渉に携わってきましたが、EUの特徴は「いろいろと景気のいいことを宣言するが、その内容の実現可能性は低い」というイメージです。

そこにコロナウイルスの感染拡大が加わり、欧州は今、“統合の脆さ”を露呈しています。

この10年で欧州の統合強化が目指されていましたが、実際には統合の終焉さえ囁かれる状況に陥っていると思われます。まさに「停滞と苦悩の10年間」を過ごしたのが欧州でしょう。

欧州は私も好きなので、応援したいところですが、世界的なパワーハウスとしての地位への復帰は望めないと見ています。この10年は、世界にそれをはっきりと認識させた時間だったのではないでしょうか。

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