雇用される側には嫌な言葉「余剰人員」を新聞はどう報じてきたのか?

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内閣府は3月31日、10~12月期に国内企業が抱えていた余剰人員は238万人と発表しました。4~6月期の646万人から約400万人減っているのは、何を意味するのでしょうか。読売新聞が報じた「余剰人員」に関する記事を読み解くのは、メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』著者でジャーナリストの内田誠さん。余剰人員減のうち、解雇や希望退職はどの程度あるのか、「余剰」とされる従業員の給与に内部留保は利用されたのかなどには言及がないまま、コロナ禍の苦境にあっても雇用を維持する企業を評価する視点の記事に疑問を投げかけています。

経済を資本と経営サイドから見た時のみに成立する嫌な言葉「余剰人員」を新聞はどう報じたか?

まずは《読売》の1面記事の見出しから。

企業の余剰人員238万人
昨年10~12月 コロナ禍 高水準続く

「余剰人員」のデータは、内閣府が「推計」として発表したもの。1回目の緊急事態宣言が出されていた4~6月期の646万人に比べれば減ったが、コロナ前に比べて高い水準が続いており、「仕事が少なくなったにもかかわらず、多くの雇用を維持している」という。

内閣府は、「過去の企業活動をもとに、企業にとって必要な従業員数を、実際の従業員数がどけだけ上回っているか」、推計した。製造業は80万人。非製造業は158万人で、そのうち「飲食・宿泊サービス業」が90万人。

●uttiiの眼

このデータを見て記者は「雇用の悪化を懸念する声も出ている」と言っているが、「声も出ている」などというレベルなのだろうか。「4~6月期の646万人に比べれば減った」というのは、この半年間に膨大な数の労働者が首を切られたということなのではないのか。

飽くまでこの範囲内での議論を突き詰めていくと、結論はハッキリしていて、必要な時に必要なだけの労働力を調達できればよい、理想は「余剰人員」ゼロの世界、ということになりかねない。それは企業側から見ても「理想」ではあり得ないと思うのだが。

【サーチ&リサーチ】

*2004年の記事は京セラの稲盛和夫氏の苦労話で、その中に登場。2017年の記事は、労働経済用語(英語)についての記事で、「余剰人員」は「excess personnel」というのだとか。以下、実質2020年3月の記事から。

2020年3月19日付
タイトルは「全日空、CA5000人を数日休業させる方針…航空需要の減少で人員に余剰」。もちろん、新型コロナウイルス感染拡大で航空需要が減少したことによるもの。「国の雇用調整助成金制度も活用し、休業手当も一部支給したい考えだ。全日空の客室乗務員は約8000人おり、そのうちフルタイムで働く約5000人を休業対象とした」という。とんでもない規模の休業措置に。

2020年3月31日付
JR東日本の深沢社長のインタビュー記事。最後に次のような発言があった。「私は若い頃、国鉄で余剰人員対策を担当しました。様々な企業に頭を下げ、雇用の引き受けをお願いして回るのです。鉄道の仕事を離れ、慣れない業務で苦労されている人を大勢見てきました。以来、こうしたことを二度と繰り返してはならないと思ってきました。長い将来を見据えて経営に取り組んでいきます」と。

*訪問看護業界は、コロナ禍で人手不足に苦しんでいる状況で、「訪問介護はどこも余剰人員がなく、平時でも人手はぎりぎり」だと。

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