マスターズ制覇のウラ側。快挙の松山英樹が目を背けたくなった自身の欠点

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ゴルフのマスターズ・トーナメントを日本人男子として初めて制した松山英樹選手の快挙が、国内外で大きく伝えられています。9年前の同大会では悔し涙を流すなど、幾度も挫折を味わってきた松山選手。何が彼を成功に導いたのでしょうか。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では健康社会学者の河合薫さんが、松山選手のように悔しさを成功につなげられる人にあって、そのまま終わってしまう人にないものについて、心理学的観点から考察しています。

プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

松山英樹「カッコ悪いパット」と未来への力

今回は「悔しさを成長に」をテーマに書き綴ります。

松山英樹選手の快挙は、日本中に興奮と感涙を巻き起こしました。私も早朝から緊張しっぱなしで、最後の最後までハラハラドキドキでした。

「勝てそうで勝てない悔しさ」を味わいつづけた松山選手。特にマスターズ2度目のチャレンジで54位タイに終わり、大粒の涙をボロボロ流しながら「自分が不甲斐ない」と激しく泣いたのは、とても印象的でした。

一流アスリートと同じ土俵で語るのは、とんでもなくおこがましいのですが、平凡に暮らしている私たちでも似たような「悔しさ」を経験することはあるものです。そして、「失敗は成功のもと」「挫折は人を強くする」などと自分に言い聞かせ、決意を新たにします。

しかし、とことん悔しがれば成長できるかというと、必ずしもそうとは限らない。悔しいという気持ちだけでは、“失敗”を成功に変えることはできません。

では、悔しさを成功につなげられる人にあって、そのまま終わってしまう人にないものとは?

それは「自己受容=self-acceptance」です。

自己受容は良い面も悪い面も含め、「ありのままの自分」を受け入れる感覚で、危機でこそ高められる人間のポジティブな思考の一つです。

自己受容は、ナルシズム的な自己愛や過剰な自尊心とは全く違います。普通であれば目をつむりたくなるような情けなく、不甲斐ない自分をもいつくしみ、「そんな自分も、自分なんだ」と自身と共存しようと考えるしなやかさです。

自己受容できれば、「自分に足りないもの」に気づけるので、なすべきことが明確になり、対処できます。対処に成功すれば、逆境を乗り越えたという自信が、「強さ」になる。つまり、悔しい気持ちを次につなげていくには、ありのままの自分と“共存”する覚悟が必要であり、そうなって初めて人は成長するのです。

興味深い調査があります。心理学者のマズローが行った「自己実現的人間」に関する調査です。

「自分の最大限の能力を活かし、完全な成長を遂げてしまっている人または遂げつつある人」、すなわちマズローが定義した「自己実現的人間」とは、どういう人なのか?という、実にシンプルな疑問の解を求めて、マズローはインタビュー調査を繰り返し行いました。

その結果わかったのが、「彼ら=自己実現的人間は決して特別な人でも完璧な人間でもなかった」という意外な事実です。

世界的には偉大で、偉人で、創造者と思われている人物であっても、私たちと同じように、周りの人をイライラさせたり、気難しかったり、自分勝手だったり、怒りっぽかったり、時にはふさぎ込んで殻に閉じこもるような“欠点”をもっていたそうです。

しかしながら、彼らは共通して「あること」をしていました。

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