NYタイムズも言い出した五輪延期・中止。訪米に浮かれる菅政権の末路

 

早くも足元から崩れ始める超楽観シナリオ

しかし、5月連休が過ぎたあたりで、緊急事態宣言の発動に至らなければならないことは、大いにありそうである。

その時に、聖火リレーは今でもすでに飛び飛び、寸断、つぎはぎという「リレー」の名に値しないほどの無残な有様で、単に電通とスポンサー企業の面子のためだけに続けているだけだから、それで五輪開催の機運が盛り上がるということはありえない。

菅訪米も、安倍政権由来の「インド太平洋」構想で日米主軸の「中国包囲網」を謳いあげるつもりなのかもしれないが、米外交専門誌『フォリン・アフェアズ・リポート』最新号の巻頭論文ではすでに、「インド太平洋戦略は幻想だ」と指摘されていて、米国に頼って中国に立ち向かうかの思考パターンはよくよく吟味しないと日本は落とし穴に嵌る。

というわけで、すべての「希望的観測」がその通りにならないどころか、逆にことごとくが裏目に出て、五輪中止、内閣頓死という菅にとっての最悪事態もありうる情勢である。

米紙が懸念「東京五輪は一大感染イベントに?」

そういう中で、米有力紙『NYタイムズ』は12日付スポーツ面で「五輪を再考すべき時だ」と題した大きな論説を載せ、東京五輪を中止し、それを機会に五輪のあり方そのものを再検討すべきだとブチあげた。このインパクトは大きい。要点は以下の通り。

7月に東京五輪というのは最悪のタイミングである。日本はコロナ対策に懸命に取り組んでいるが、感染者はじりじりと増えつつあり、しかも同国のワクチン接種率は遅れをとっている。聖火リレーは今週、大阪に達するが、そこでは変異種の拡大で医療システムが崩壊の瀬戸際にあるため、リレーのルートを変更しなければならなかった。

この騒然たる環境の中へ、全世界からやってくる1万1,000人の運動選手は、コーチ、役員、五輪支援スタッフ、メディア関係者その他を伴って、降り立つことになっている。東京五輪は、3週間に及ぶ一大感染イベントになり終わることになりかねず、それによって死者や患者が日本のみならず世界に広がるだろう。

日本の公衆は、このような健康リスクをよく理解している。彼らはまた、五輪のコストが昨年だけでも30億ドル追加され、154億ドルという記録的な金額に膨れ上がっていることも、よく知っている。最近の調査では、日本人の80%近くが、五輪は再延期もしくは中止すべきだと答えている……。

この際「五輪そのものを再考しよう」という提案

このあと論説は、22年2月の北京冬季五輪についても、中国政府のイスラム系少数民族への弾圧が国際的にジェノサイドと非難されている中で、すでに議論は「ボイコットすべきかどうか」に絞られつつあること、そうでなくとも近年の五輪がドーピング、ワイロ、選手への身体的虐待などスキャンダルまみれであり、さらに北京でもソウルでもリオでも再開発のための強制移住で何万もの貧しい人々が苦しめられてきたことなどを指摘。自分なりの五輪の抜本改革のためのアイデアを次のように述べている。

人権をあからさまに踏みにじる権威主義国家には五輪開催権を与えない。選手たちに五輪運営全般に対するもっと大きな発言力を与える。会場を世界のあちこちに転がすのでなく、夏季と冬季の各1カ所の計2カ所の恒久的な会場に固定すれば、コストを切り詰め、環境への負荷や強制移住を防ぎ、汚職の元となる誘致合戦を止めさせることにもなる。あるいは、分散化。3週間の短期間に世界中あちこちのすでに存在する会場でそれぞれの競技を行う。もちろん豪華絢爛な開会式はあきらめなければならないが、今時そういうものが必須なのかどうか……。

面白い提案である。ただし、同時期に各種目の大会を同時多発的に行うというのは、たぶん難しいだろう。サッカー、ラグビー、ゴルフをはじめどの人気競技もそれぞれ独自のW杯やメジャー大会などの日程を持っていて、それでも五輪には出来るだけの調整をして参加・協力するのはそれが全世界から多様な競技に携わる多数の選手が1カ所に集結して行う「祭典」だからである。その魅力がないのであれば、どの団体も自分らの日程を優先して五輪のために無理をしなくなるだろう。

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