役人用語が中国を増長させた。弱腰ニッポンよ「台湾有事」への危機感を肉声で示せ

 

私としては、首脳会談における台湾や東シナ海についての表現は、共同声明くらいでよいと思っています。しかし、日本側には日頃から示しておくべき認識が欠けているという深刻な課題が残されています。これが米国側に「台湾有事に対する危機感が希薄」という印象を与えているのです。

首相をはじめとする日本の指導者が機会に応じて示しておく必要があるのは、台湾有事は日本有事と重なるという認識です。仮に中国が台湾に軍事侵攻した場合、中国と台湾の戦闘機は国境を越えて日本の領域でも戦うでしょう。日本の国境のところでUターンしたり、動きを止めたりするということはあり得ません。

台湾有事とはそのような事態なのです。戦火が起きれば、日本は国防のために動かざるを得ません。自衛隊は米軍とともに出動し、台湾の領域内でも中国軍を排除することになります。台湾全土の上空で日米の航空機が飛ぶことも考えられます。

中国にしても、本音では、そのような事態を避けたいのは、言うまでもありません。中国人民解放軍の将軍たちに、「中国が日本の立場だったら、同じように考えるだろう」と問いかけると、反論されたことは一度もありません。中国側はわかっているのです。だからこそ、日本としては緊張が生じないよう、力によって現状を変更するような動きは慎むべきだ、と常に力説しておく必要があるのです。

その場合、これまで日本政府が口にしてきたように、「台湾有事を重要影響事態として考える必要がある」などといった役人用語で説明しても、中国側も日本国民もピンとくるはずはありません。

重要影響事態とは、そのまま放置すれば、日本の平和と安全に重要な影響を与える事態で、その事態に対応して「日本が実施する措置、その実施の手続その他の必要な事項を定め、日米安保条約の効果的な運用に寄与し、日本の平和及び安全の確保に資することを目的としている」というのが重要影響事態安全確保法です。

政治のリーダーたちは、国会答弁でもない限り、そんなややこしい言い方をしてはいけません。「台湾有事は日本有事と重なる憂慮すべき事態だ。台湾有事は中国にとっても有事として捉えるべき深刻な事態のはずだ。そんなことにならないようにお互いに知恵を絞ろう」というように、肉声で語りかける必要があるのです。首相官邸の事務方は、菅首相が読むプロンプターの文面を肉声に変える工夫が求められています。(小川和久)

image by: 首相官邸 

小川和久この著者の記事一覧

地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 NEWSを疑え! 』

【著者】 小川和久 【月額】 初月無料!月額999円(税込) 【発行周期】 毎週 月・木曜日発行予定

print
いま読まれてます

  • 役人用語が中国を増長させた。弱腰ニッポンよ「台湾有事」への危機感を肉声で示せ
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け