ということで、懸案事項については全てカバーしているものの、全体としては様々な問題があるわけです。とりあえず、私の観点からは、次のように総括できると考えています。
a)対中国については、徹底的な現状維持宣言であり、その意味では冒険主義や挑発色は皆無であり、これを菅総理が呑んだこと、バイデンが呑んだことについては政治的な成果としていいのではないかと思います。
b)アジア系へのヘイトクライム問題については、私は、Newsweekで「首脳会談で取り上げよ」という提言をしたわけです。
これを官邸が参考にしたのかは分かりませんが、とにかく、従来の政権とは一味違うという印象を持ちました。これは良かったと思います。何よりも、中国などへの日米からのメッセージとして評価できます。
c)技術協力については、とにかく「日本は持ち出し」で終わることを危惧しています。
d)もう一つ気になるのは軍拡を約束したことです。究極の公共工事ですから、財界は歓迎するかもしれませんが、やればやるほど技術はアメリカに流れ、中国との競争は激化して、最後には財政が苦しくなるのは日本側となります。追求すればするほど不利なわけですから、中長期の国益を考えた自制を強く求めたいと思います。
e)ワクチン供給に関しては、J&Jが血栓問題で接種停止になっており、余剰が出ない危険を感じていましたが、ファイザー供給の道が開けたようです。この動きですが、高齢者への接種がヤマを越えた後で、米国内での接種が供給過剰になりつつあり、そのために日本へ回すことができそうです。つまり、トランプ派などが嫌がって接種を受けない分が回るという気配があるわけで、仮にそうなれば何とも妙な展開になります。
f)エネルギー政策に関しては、小型原子炉、水素、トリチウム水に関しても協議されたと思いますが、詳細は薮の中で、これは大変に困ります。議論された内容の公開を求めたいと思います。
g)双方が、厳重にマスクをしての会談ということですが、バイデン大統領と、菅総理はどちらもファイザーを2回接種しています。ということは、接種完了者同士ということですから、CDC(アメリカ疾病センター)の基準によれば、会食はOKのはずです。にもかかわらず、あのような厳戒態勢となったのは、双方が高齢だったので警戒した、国境を越えた場合のルールがある、お互いの世論向けに炎上しないようにマスクした、などの理由があると思います。但し、日本の代表団に「非接種者がいた」ので厳戒態勢になったのなら、日本側が間抜けとしか言えませんが、日本の代表団が全員接種していたのであれば、少しだけですが引っ掛かりを感じます。
詳しい分析はまた改めてお届けしたいと思います。(メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』より一部抜粋)
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