ここにも中国の影。イスラエルとパレスチナ衝突でほくそ笑む指導者たちの思惑

 

「好都合」と捉えるイランの狙い

不謹慎な言い方になりますが、今回のこの情勢を前に“笑う”のは誰でしょうか?

言い換えると、利益を得るのはどの国でしょうか?

一つ目の候補は、イランです。

ロウハニ大統領の任期満了に伴う大統領選挙が迫る中、対米・対イスラエル強硬派の支持率が伸びています。実際に立候補することはハメネイ師周辺から拒まれるようですが、前に大統領を務め、非常に先鋭的な政策を推進したアフメニジャド氏も、2017年に続き、支持を集めています。

その理由は、「ロウハニ大統領の下、穏健派・国際協調派の政策が推し進められ、核合意に合意したが、結局、アメリカの都合に振り回され、状況は核合意前より悪化している」というものが多く、続いて「周辺国が反イランの方針を強め、軍事力も増強している中、イランは制裁の下、より大きく広い危険にさらされることになった」という主張も、苦境に苛まれている今、どんどん強くなっています。

そのような状況下で、強硬派にとって、現在、起きているイスラエルとアラブ社会との分断は、アラビア半島におけるイランの影響力を伸ばすには好都合だと考えられているようです。

「ムスリムの同胞であるパレスチナ人が、イスラエルとその背後にいる欧米によって、権力のおもちゃにされている」

そして、「同胞アラブ(注:イランはペルシャであり、厳密にはアラブではない)を守る必要がある」と強調し、アラビア半島におけるイランの存在感を増強させ、ネガティブな方向に振れている対イラン感情をひっくり返したいとの思惑も見え隠れします。

最近、ザリーフ外相にアラブ諸国を歴訪させ、これまでの対立姿勢から、協調姿勢の模索を行っているのも、その一連の狙いに合致します。

現時点では、サウジアラビア王国をはじめ、イランの“真意”に対して疑いの目を向けていますが、サウジアラビア王国およびUAEの外交官の友人たちによると、「イランの接近を評価する」とのことで、イランの狙いは的中しているようにも思います。

そんな中、イランとしてもスンニ派勢力との距離および緊張感は保ちつつ、【同胞パレスチナの悲劇】をクローズアップすることで、スンニ派勢力からイランに向けられている敵意および対立意欲を低減させたいと狙っており、そのために、アラブ諸国とイスラエルの間で進んできた融和の動きに待ったをかけ、「やはりイスラエルは信用ならない」という図式に持っていこうとしているように見えます。

次の候補は、イスラエルのネタニエフ首相とリクードです。思い切り今回の紛争の当事者であり、容赦ない報復の連鎖は、「やはりイスラエルはアラブを力で抑えるつもりか」というイメージを沸き立たせていますが、劣勢が続く国内での勢力争いにおいては、国内・国民に対する危険は、変な言い方ですが、好都合なようです。

先の総選挙でかろうじて第1党になったものの、また過半数には届かず、政権維持のためには連立を組む必要があるリクードとネタニエフ首相ですが、大統領から与えられた組閣のための猶予までに連立合意ができず、その権利を野党に奪われることとなりました。

いろいろなpollsを見ていると、野党勢力による連立成立の可能性は五分五分の可能性とのことで、ネタニエフ首相が首相の座を追われ、リクードが野党に転落する可能性が出てきました。

ネタニエフ首相自身、多くの刑事訴追に直面しており、コロナウイルス感染拡大をはじめ、使える危機はとことん強調して、何とか首相の座に居座ることで、収監されることなく、ここまで保身できました。

ついに命運尽きたかと思われた矢先、現在のハマスとの対決が転がり込み、息を吹き返す兆しを見出しているようです。リクードも彼自身も、今回の報復の連鎖を「パレスチナ、ハマスによるテロ、そしてイランからの脅威に適切に対応し、イスラエルを勝利に導くことが出来るのは、自分たちのみ」というキャンペーンを張るためのいい材料として使っています。

軍事力ではイスラエルが圧倒的な力を持ちますが、国際政治の波やプレッシャーという外的要因を踏まえた際に、その優位性にどれだけの影響があるのか。

トランプのアメリカなき現在、その答えはクリアではありません。

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