イスラエルとパレスチナ、双方の本音
アメリカの“不在”は、国内の政治情勢を理由にし、武力衝突を、イスラエル―パレスチナそれぞれの陣営の支持率の向上につなげるという、極めて身勝手な理由を許容してしまったように思います。
まず、イスラエル(ネタニエフ首相)側から見てみましょう。
今回の“戦争”は、一言でいえば、「ネタニエフ首相の生き残り戦略」です。
先の総選挙後、組閣要請を大統領から受けましたが、結局、協議がまとまらず、今、組閣要請の順番は野党側に移っています。
野党サイドの組閣がうまく進んだ場合(可能性は五分五分と言われていますが)、ネタニエフ首相は首相の座を追われ、数多くの刑事訴追からのimmunityを失うことになります。おそらく、結果として収監されることになるといわれています。
同時に、彼が率いてきた与党・リクードは政権の座を追われ、久々に下野することになってしまいますが、多くの観測によると、その場合は、建国以来、権力の中枢にいたリクードが解体されるのではないかと懸念されています。
ゆえに、この不利な状況を打開するために、ネタニエフ首相としては、若干大げさに「対パレスチナ・対ハマスへの強硬姿勢」を強調し、「危機に直面しているイスラエルを率いることが出来るのは、ネタニエフ首相とリクードのみ」といったイメージを掲げ、首相本人とリクードの支持率回復に用いようとの魂胆が見えます。
では、パレスチナサイドはどうでしょうか?
「決してイスラエルの横暴には屈しない」という精神はまだ健在かと思われますが、主な理由は、トランプ・ディールによってアラブの同胞たちと切り離され、パレスチナの独立をはじめとするself-determinationへの希望が、国際社会の関心事から離れかねないことへの恐れ・焦り、そして怒りの現れではないかと考えます。
アッバス首相率いるファタハは、このトランプ・ディールによって国内における支持を失い、今回の紛争の発端にもなった東エルサレムの居住権問題でも、目立ったリーダーシップを示すことが出来なかったことで、存在感が薄れていました。
そこに、パレスチナ人から絶大な支持を受けるハマス(ファタハとは、微妙な緊張関係にある)が闘争の最前線に復帰し、「アラブの兄弟たちとの連携を回復・強化する」、「パレスチナ人の自治独立を成し遂げるために、イスラエルと対峙する」と掲げて、今回の対イスラエル攻撃に臨んでいるものと思われます。
アッバス首相の支持率低下もですが、ハマスも、トランプ・ディールの煽りで支持・勢力を失ってきたといわれており、今回、パレスチナ内、そしてシリアやレバノンの同胞たちとの支持と連携をつなぎとめるきっかけを探していたところに、東エルサレム問題が浮上して、それを一気に対イスラエル闘争にエスカレートしたとみることが出来ます。
共に強硬姿勢を示すことで、国内での支持回復と獲得につなげたいというのが、今回の紛争の背景にあります。それゆえに、簡単には振り上げた拳を下すきっかけを見つけられないか、関心がないという悲劇的な憂慮すべき状況になっていると思われます。
またこの背景には、アメリカ・欧州各国の中東諸国に対するグリップとコミットメントが著しく減少しており、結果として、効果的でかつ信頼できる仲介努力・調停は期待薄であると思われるという、国際政治の事情も、エスカレーションという炎に油を注ぐ要因になっているのではないかと思われます。
ゆえに、そう簡単に、そして短期的に、今回の紛争が解決するとは考えづらく、その事情が、多くの情報筋に「新たな中東戦争の勃発か」という懸念を抱かせる要因になっています。
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