子育ての主体が親であることは間違いのない事実ですが、だからこそ「育てる側の価値観」を押し付けることは厳に慎むべきではないでしょうか。今回の無料メルマガ『親力で決まる子供の将来』では著者で漫画『ドラゴン桜』の指南役としても知られる親野智可等さんが、自分の価値観を最優先させた父親の子育て法と、成人した息子の現在の様子を紹介。残ったのは親としての「後悔」だけでした。
自分の価値観を最優先にした子育ての結果は…親子関係の崩壊
「息子が赤ちゃんの時から、やりなおしたいよ」。
私の知り合いのAさんが、あるとき、私にしみじみ言いました。Aさんは50歳くらいの男性です。
Aさんは、若い頃からなかなかのスポーツマンでした。特に、サッカーでは地元でかなり有名だったようです。それで、結婚して子供ができたら、子供にも何かスポーツをやらせたいとずっと思っていました。できたら、何かのプロスポーツ選手にしたいという気持ちも密かに持っていたようです。
ところが、息子さんはお父さんとは全く違うタイプでした。小さい頃から、絵を描いたり工作をしたりするのが好きな子でした。Aさんは、そんな息子さんに不満で仕方がありませんでした。もっと元気でたくましい子になってほしいと思っていたのです。
それで、幼稚園に入るころから、自宅の庭をウサギ飛びや片足飛びで回らせて鍛えだしました。『巨人の』の影響もあったそうです。陸上教室に連れて行ったこともありました。でも、なかなかAさんが思い描くようにはいかなかったそうです。
あるとき、息子さんが幼稚園で作った工作が全国コンクールで入賞して、大きな賞をもらいました。でも、Aさんは、それを認めたくありませんでした。それで、なんと、賞状をビリビリに破いてしまったのです。褒めるどころではありませんでした。
息子さんが小学生になってからは、Aさんはさらに多くのことを求めるようになりました。運動会では絶対1位を取るようにと、1ヶ月くらい前から特訓です。その甲斐あって、1位を取ったときはうれしかったそうです。
3年生の時に、地区のサッカースポーツ少年団に入れました。もちろん、Aさんの意向だけで、本人の気持ちなど全然お構いなしです。でも、息子さんは、そのスポーツ少年団に初めからなじめませんでした。
もともと、1人で絵を描いたり何か作ったりしているのが好きな子なのですから、それも仕方がないことです。練習後にみんなが遊んでいても、息子さんは1人で家に帰ってきてしまったそうです。
でも、Aさんは息子さんの態度が許せませんでした。Aさんにしてみれば、そういうことはチームワークを乱す行い以外の何ものでもないのです。Aさん自身が、チームワーク、チームワークと言われて育ったからです。
だんだん、息子さんは練習をサボるようになりました。学校には同じ少年団の子供たちがいるので、登校も渋るようになりました。中学生くらいからは、もう全く行かなくなってしまったそうです。Aさんはもちろん、そういうことを許せるはずもなく、かなりきつく当たりました。でも、すでにどうしようもなかったそうです。
今、息子さんは成人して、1人住まいをしています。長い引きこもりから抜けだし、アルバイトを始めたそうです。母親とは連絡を取り合っていますが、父親であるAさんとは、直接のやりとりはありません。
そして、Aさんの冒頭の言葉になるわけです。Aさんは、今ようやく気が付いたようです。自分の思い込みと価値観を最優先して子育てをしてきたということに。子供の気持ちや個性を無視して子育てをしてきたということに。
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