大人の心理学。富田隆教授がSMで紐解く「恐怖による支配」の構造

 

【奴隷労働】

SMプレイの場合は、カップルが合意と自由意志に基づいて快楽を探究しているのですから倫理的に問題はないのですが、これと同じ原理で、いわゆる「奴隷労働」も成り立っています。こちらの方は、人道上、許されることではありません。

なぜ、世界中の国々から非難を浴びながらも、ウイグル自治区などで奴隷労働が続けられているかといえば、それは、報酬によって人を働かせる「正の強化」に比べ、「負の強化」では費用がほとんどかからないからです。奴隷労働は「安上がり」なので、強欲な企業家や資本家(独裁者)がその分ごっそりと利益を得られるというわけです。

たとえば、奴隷労働では、まず先に奴隷たちに苦痛を与えておいて、「一所懸命に働けば酷い目には合わさない」と回避行動を持ちかけるのです。奴隷労働では、労働を「強化」するのに、ボーナスも賞品も必要ありません。生産が目標量に達したらご褒美として拷問を受けなくてもよいように取り計らってやる、あるいは最低限生きていけるような収容所の環境を保証する、ただそれだけで良いのです。

今でこそ、奴隷労働は中共や犯罪組織が支配する地域などのごく一部でのものとなりましたが、昔は、世界中で当たり前のように行われていました。

その理由は、第一に先に述べたように「経済的」で安上がりなことが上げられるでしょう。ルールや倫理を無視した経済の「自由競争」が放置され続ける限り、奴隷労働への誘惑は無くならないでしょう。低コストのみが重視される無規範な世界では「悪」の方が競争に勝つのです。

もうひとつ、第二の理由は、習得に際しての「効率の良さ」です。人は苦痛や恐怖には敏感に反応するので、工場労働など目標とする行動を、比較的短期間で容易に強化し習得させることができるからです。命懸けの状況では、人は真剣に働き、一所懸命に新しい技能も習得しようとします。

ですから、教育の分野でも、生徒たちを鞭で脅かしつけ、「負の強化」による学習で成績向上を目指そうとする教師が、現代においてさえ後を絶たないのは、このためです。さすがに暴力をふるう教師は少なくなりましたが、精神的な暴力で生徒の心に恐怖を植えつけ、追い込み、恐怖からの逃避や回避の形で勉学を動機づけようとする教師はまだ結構いるようです。こうした教師に支配された生徒は、自分の夢を実現するために勉学するのではなく、落ちこぼれになりたくない、とか、親兄弟をガッカリさせたくない、他人からバカにされたくない、といった、ネガティブな動機で勉強をするわけです。

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