笑った上に勉強にもなる。落語「時そば」に学ぶ商売の基本とお金の知恵

 

2.落語「片棒」に見る経済効果

片棒という落語に登場するのは、赤螺屋吝兵衛というケチで有名な大店の主人と金太郎、銀次郎、鉄三郎の三人の息子です。

吝兵衛が三人の息子に、自分が死んだら、どんな葬式を出すのかと聞くところから噺は始まります。

金太郎は、付き合いが多いので通夜を二晩やると言い出します。会場は増上寺、本願寺クラス。本漆塗り三段重の豪華なお土産を用意して丹後縮緬の風呂敷でくるみ、お車代もつける。

銀次郎は、破天荒で歴史に残る色っぽい弔いを出したいようです。紅白の幕を張り、行列の先頭は鳶の頭の木遣り、次が芸者衆の手古舞、続いて山車が出ます。山車の上には吝兵衛のからくり人形。その次にお骨を仕込んだ御輿を出す。

鉄三郎は、吝兵衛に似たケチな性格。通夜ではお茶やお菓子も出さず、翌日の本葬も時間を偽って参列者が来る前に出棺させれば、何も出さなくてすむ。棺桶も勿体ないから菜漬けの樽を転用。担ぐのも人足を頼むと金がかかるから、鉄三郎が担ぐ。もう片方をどうしようと言うと、吝兵衛が片棒は俺が担ぐ、と落とす、という噺。

事業継承を昔から難しいようですが、この三人の内、誰が後継者にふさわしいのでしょうか。

赤螺屋の身代を考えれば、鉄三郎が良いのかもしれませんが、社会的に考えると最低です。金を回さずに、ため込むだけ。経済効果がありません。

金太郎と銀次郎の葬式は、準備が大変です。生前から準備しない限り実現しません。

金太郎の計画の大きな寺を押さえるのも大変だし、器や料理を揃えるのも大変です。江戸中の職人を総動員しなければ無理でしょうね。

この二人には人脈があります。だてに金を使っているのではない。それでも何千人もの人を動員するのも大変です。器量がないとできないことです。

銀次郎は、祭りを仕切れる人であり、これまで祭りに金をばら蒔いてきたに違いありません。鳶の頭、芸者衆、囃子連中を揃えるのも大変なこと。山車や御輿を誂えるとなると、これは何年もかかります。

二人のプロジェクトは、ピラミッドのように生前から準備しなければできません。しかし、これが実現すれば、日本中で評判になります。仮に、全財産を使ったとしてもこれだけのことができれば、仕事には不自由しませんし、投資してくれる人も出てくるに違いありません。

散財というのは案外クリエイティブなことです。この落語をシリコンバレーのベンチャー成金に聞かせたいですね。どうせ使うなら、金太郎、銀次郎のように使いなさい。そうすれば、職人に仕事が回り、世の中の景気が良くなります。

ということで、私は長男の金太郎に跡を継がせるのが良いかなと思います。銀次郎も財産を分けて暖簾分けで独立させたいところですね。鉄三郎には財産は渡さず、冷たく家から追い出し、裸一貫からスタートさせるのが良いでしょう。そうすれば、兄弟三人がそれぞれ成長していくかもしれません。

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