シアトルの奇跡。コロナで料理店を潰した日本人に起きた大逆転劇

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コロナ禍にあって多くの飲食店経営者が苦戦を強いられていますが、そんな方々の新たな指標となりうるエピソードがアメリカから届きました。今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』では「Windows95を設計した日本人」として知られる米シアトル在住の世界的エンジニア・中島聡さんが、日本食レストランの営業停止を余儀なくされた次男・正太さんの身に起きた「逆転劇」を紹介。腕に覚えがある料理人がインフルエンサーとして生計を立ててゆく可能性は、十分に存在しているようです。

プロフィール中島聡なかじま・さとし
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。

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飲食店経営者に訪れたインフルエンサー・ビジネスという転機

私には息子が二人いますが、若い方の正太が料理人で、2016年にシアトルに「Adana」という名前のレストランをオープンしました。日本の「割烹」を意識した、「ちゃんと料理した日本料理」を手軽に食べられるレストランです。米国では「日本料理といえば寿司」のイメージが強い風潮に逆らったアプローチで、それなりの成功を納めていました。

2020年の3月に、数ヶ月間準備していた二軒目のレストラン「Taku」をオープンしました。「Adana」と比べると半分ぐらいの大きさですが、バーカウンターに座って串揚げを食べながらお酒を飲む、より手軽なレストランです。飲食業界では、「客単価の高いフランス料理よりも、回転の早いラーメン屋の方が儲かる」ことは良く知られていますが、まさにそこを狙った店舗でした。

実際にオープンすると、行列が出来るほどの大繁盛で、「Taku」のコンセプトがシアトルの若い人たちのニーズにマッチしていることが証明されました。そのころ、既に新型コロナの流行が始まっていましたが、まだ一般の人たちの間には危機感もなく、マスクをしている人もいませんでした。

しかし、開店3日目に来たのが、ワシントン州知事からの小売・飲食店への営業停止命令です。ロンドンやニューヨークで起き始めていた医療崩壊を受けた施策です。日本のような法的拘束力のない「要請」ではなく「命令」なので、選択の余地はなく、完全なロックダウンです。

二軒目をオープンしたばかりの正太は途方に暮れていましたが、両方のレストランを閉じ、「Taku」で雇ったばかりの人も含め、従業員全員を解雇するしかありませんでした。

幸いなことに、従業員には失業手当に加えて政府からの補助金が出ましたが、レストランの経営者は、とても厳しい状況に追い込まれました。従業員を解雇したとしても、家賃などの固定費はゼロにならないので、キャッシュフローがないまま、赤字を垂れ流しすることになるからです。

正太は、それぞれの店舗の大家との交渉を開始し、「Taku」だけを残し、一軒目の「Adana」の方は完全に店を閉じることに決めました。それなりのブランド力も持っていた「Adana」を諦めるのは、彼にとっても苦渋の選択だったと思いますが、今になって考えてみると、「潔い決断」でした。

懸命にビジネスを育ててきた「Adana」を閉じ、せっかくオープンしたばかりの「Taku」も開けられない状況に追い込まれた正太に親として出来ることはほとんどありませんでしたが、その時に私が提案したのが「Youtuberになること」でした。

私としては「どうせ店を開けられないのだから、余った時間で料理に関する動画をYoutubeに投稿して、ファンを確保しておけば、後で店を出す時に大きなプラスになる」という思いの提案でしたが、その時はまったく相手にしてもらえませんでした。

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