むろん、国際的なスポーツイベントやそのマーケティングにおいて、電通が世界トップクラスの企業であることは間違いない。だが、金儲け主義をスポーツ界にはびこらせた元凶もまた、電通である。
「最初の商業五輪」といわれる1984年のロス五輪は電通の企業史のなかでも大きな転換点だった。
その2年前に、スポーツ用品大手「アディダス」創業家のホルスト・ダスラー氏と折半出資で設立していたスポーツマーケティング会社「ISL」がロス五輪で、電通に大きな利益をもたらしたのだ。
その後、電通はISL社を使って、IOCや国際陸上競技連盟などをとりまくスポーツビジネスの世界に食い込んでいったのだが、ISL社は2015年にスイスの司法当局が摘発したFIFA(国際サッカー連盟)の汚職事件で、FIFAの幹部たちにカネを貢いでいたことが発覚し、その後、破綻する。電通はISL社を通じて取得したワールドカップの諸権利を日本のメディアに売りさばいてぼろ儲けしていた。
FIFA汚職事件の裁判では、電通からISL社へ提供された資金の一部が当時の電通専務、高橋治之氏あてに、キックバックされていたことが判明したが、これについて電通は何も語らず、高橋氏は現在、東京五輪組織委員会の理事におさまっている。
東京五輪の招致もまた、IOCのマーケティングパートナーだった電通の主導でおこなわれ、多額のカネが動いた。
2016年5月、日本から振り込まれた買収資金でアフリカ票の獲得工作が行われた疑いが英紙の報道で浮上。これを受け、東京五輪招致委員会は、元国際陸上連盟会長の息子が関係する「ブラック・タイディングズ社」の口座に、コンサルタント料として2億3,000万円を送金したと発表した。ブラック社の代表は電通の系列会社の関係者だった。
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また、電通が招致委員会の口座に寄付として6億7,000万円を振り込み、招致委員会から高橋治之氏の会社に9億円の送金があったことが分かっている。
こうした不透明なカネの流れについては、昨年11月26日の参院文教科学委員会で取り上げられ、「高橋さんはアフリカ票を確保できたのは自分のおかげと威張っているが、まずい発言だ。招致委と組んでロビー活動をしていたと疑われても仕方がない」(松沢成文議員)との発言があった。
東京開催が決まった後、当時の電通トップはオリンピックで1兆円の売上をめざすと宣言したという。それはそうだろう。五輪でいちばん利益を得るのは電通だ。
五輪のスポンサーは約80社に達していて、電通一社が契約業務を独占している。五輪マークがつく一切のCMやグッズの制作、流通に電通がからんで利益を享受している。五輪放映権は、米国分をNBC、日本分をNHK・民放の企業連合が獲得したが、アジア分は電通が入手しアジア各国に販売した。
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