5年で1000億の異常。政府「すべて丸投げ体質」が招いた五輪開会式の大混乱

 

筆者が思うには、いくら才能があるといっても、小山田氏や小林氏でなければならない理由など、ほとんどなかったのではないか。他に人材はいたはずだ。彼らの過去の言動は、調べたらすぐ分かることだし、実際には分かっていただろう。

二人を演出スタッフに引き入れたのは、広告界のガリバー、電通である。電通の人選ミスが今回の騒動を招いたといえる。さらに言うなら、政府や大会組織委員会の、電通丸投げ体質がなせるわざである。

演出の総合統括は当初、狂言師の野村萬斎氏だった。そのままだったら、開会式はまた違った趣向に仕上がったかもしれない。が、なぜか、野村氏や椎名林檎氏ら7人のチームは昨年12月に解散、チームの一員で電通出身のクリエーティブディレクター、佐々木宏氏が総合統括を担うことになった。佐々木氏ら電通側と野村氏との間で、演出方針をめぐる意見がかみ合わなかったとみるのが常識的だろう。

佐々木氏は1977年に電通に入社し、ソフトバンク「白戸家シリーズ」、サントリー「BOSS」など有名CMを手がけてきた。電通から100%子会社のシンガタに移り、安倍前首相がマリオに扮して登場したリオ五輪閉会式のフラッグ・ハンドオーバー・セレモニー(五輪旗引き継ぎ式)の演出チームにも加わっていた。

寄り合い所帯である大会組織委員会から企画、マーケティング、スポンサー獲得、五輪本番の進行まで一切合切を引き受けている電通が、OBとはいえ不可分の関係にある佐々木氏を、五輪演出の中心に据えたがるのは自然なことかもしれない。

しかし、それも行き過ぎると、おかしなことになる。野村萬斎氏という異分子を排除してからというもの、電通支配がますます目立ってきたようだ。

昨年3月、佐々木氏が、タレントの渡辺直美氏を豚になぞらえるアイデアを出した。これに反対した演出振付家、MIKIKO氏は責任者を外された。その仕打ちの裏に、電通ナンバー2、高田佳夫代表取締役の意思が働いていた。MIKIKO氏は高田氏や佐々木氏にとって扱いにくい存在だったのだ。

この事実が週刊誌報道で発覚。佐々木氏はそれを認めて今年3月に辞任したが、東京五輪の開閉会式演出は「総合統括」という柱を失うことになった。いわば、司令塔不在のまま五輪本番に向けた演出の詰めの作業を進めていたのだ。

小山田氏や小林氏にかかわる問題の背景には、そのような組織的欠陥があった。そして、その遠因には、政府が政策遂行やイベント開催の実務を安易に電通に丸投げする体質がある。

2015年から19年にわたる5年間で、政府からのその種の支出額は電通本社だけで1,000億円(約560件)をこえる。最も額が多いのは、一定の性能を有する住宅の新築やリフォームに、様々な商品等と交換できるポイントを発行する事業の約80億円である。しかし、トンネル会社を通じて巨額の税金を中抜きするなど、見えない政府関連の収入があるのは持続化給付金支援事業でも明らかであり、当然のことながら1,000億円にはそういう類の金額は含まれていない。

各省庁や東京都などからの出向者が多い大会組織委員会事務局も、下請けに再委託、再再委託するやり方を承知で電通に頼りきっている実態がある。

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