自民党政権の醜い本質が見えた「黒い雨訴訟」上告断念の首相談話

 

すると、菅義偉首相は、上告期限の7月28日の前日の27日、「上告を断念する」との主旨の談話を閣議決定し、発表したのです。政府は完全に上告するつもりで準備していましたので、官邸が押し切った形です。さすがに、ここまで内閣支持率が危険水域に近づくと、もはや「ワラにも菅義偉」というわけで、お得意の政治判断なのでしょう。理由はともあれ、素晴らしい結果となりました。しかし、閣議決定された談話の全文を読んでみると、そこには自民党政権の醜い本質が浮き彫りになっていたのです。

首相談話(全文)

 

本年7月14日の広島高裁における「黒い雨」被爆者健康手帳交付請求等訴訟判決について、どう対応すべきか、私自身、熟慮に熟慮を重ねてきました。その結果、今回の訴訟における原告の皆さまについては、原子爆弾による健康被害の特殊性に鑑み、国の責任において援護するとの被爆者援護法の理念に立ち返って、その救済を図るべきであると考えるに至り、上告を行わないこととしました。

 

皆さま、相当な高齢であられ、さまざまな病気も抱えておられます。そうした中で、一審、二審を通じた事実認定を踏まえれば、一定の合理的根拠に基づいて、被爆者と認定することは可能であると判断いたしました。

 

今回の判決には、原子爆弾の健康影響に関する過去の裁判例と整合しない点があるなど、重大な法律上の問題点があり、政府としては本来であれば受け入れ難いものです。とりわけ、「黒い雨」や飲食物の摂取による内部被ばくの健康影響を、科学的な線量推計によらず、広く認めるべきとした点については、これまでの被爆者援護制度の考え方と相いれないものであり、政府としては容認できるものではありません。

 

以上の考えの下、政府としては、本談話をもってこの判決の問題点についての立場を明らかにした上で、上告は行わないこととし、84人の原告の皆さまに被爆者健康手帳を速やかに発行することといたします。また、84人の原告の皆さまと同じような事情にあった方々については、訴訟への参加・不参加にかかわらず、認定し救済できるよう、早急に対応を検討します。

 

原子爆弾の投下から76年が経過しようとする今でも、多くの方々がその健康被害に苦しんでおられる現状に思いを致しながら、被爆者の皆さまに寄り添った支援を行ってまいります。そして、再びこのような惨禍が繰り返されることのないよう、世界唯一の戦争被爆国として、核兵器の廃絶と世界の恒久平和を全世界に訴えてまいります。

…そんなわけで、あまりにもツッコミドコロが満載なので「迷い箸」をしてしまいそうですが、この談話で菅義偉首相が何よりもアピールしたかったのは、冒頭の「私自身、熟慮に熟慮を重ねてきました」のクダリです。ようするに「この私の判断で上告を断念し原告らを救済することにした」という点を強調しておかないと、支持率回復に結びつかないからです。そのために、わざわざ「国の責任において援護するとの被爆者援護法の理念に立ち返って」などと念を押しています。

これが本心であれば百点満点ですし、菅義偉首相の判断は「大英断」と言えます。しかし、残念ながら、菅義偉首相の本心はこの後に登場します。3段目の「今回の判決には」からの部分です。冒頭で「被爆者援護法の理念に立ち返って」などと述べた舌の根も乾かぬうちに「これまでの被爆者援護制度の考え方と相いれない」と自分の前言を完全否定、まるで絵に描いたような「ちゃぶ台返し」です。

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