自民党政権の醜い本質が見えた「黒い雨訴訟」上告断念の首相談話

 

しかし、いくら国が戦争責任を認めずとも、当時の日本政府が降伏を受け入れなかったために広島と長崎に投下されてしまった原爆による被害は、ポツダム宣言を受諾した敗戦後も拡大し続けました。それは、原爆による直接被害は免れたものの、被爆によって癌などを発症して苦しむ市民が後を絶たなかったからです。そして、広島と長崎の複数の被爆者団体や東京などの支援者団体の長年の訴えによって、国は昭和32(1957)年、被爆者を救済するための「被爆者援護制度」を制定したのです。

しかし、これは戦争責任を認めない前提での救済措置ですから、原爆で家族を失った遺族や、原爆で家や財産を失った被害者には、1円も支給されません。原爆によって被爆し、その被爆が原因で癌などを発症した民間人に対して「被爆者健康手帳」を交付し、治療費などを国が支払うというものです。こうした形であれば、苦しんでいる国民を救うための「福祉策」であり「人道的な措置」と言い張れるからです。

国に被爆者と認定されて「被爆者健康手帳」が交付された民間人は、過去に最大で35万人以上いましたが、被爆者の高齢化に伴って減少し始め、現在では約20万人ほどになりました。しかし、こうした背景の中、被爆による疾病に苦しんでいるのにも関わらず、長年、被爆者と認定されずに来た人たちが、少なくとも1万3,000人以上もいるのです。

それは、原爆の爆発後に降った「黒い雨」を浴びたことで被爆した人たちや、爆発後に救助のために現場に入ったことで空気中の放射性物質を吸い込んで被爆した人たちの中で、国が定めたエリアなどの細かい規定に外れている人たちです。この1万3,000人以上の人たちは、原爆が原因で被爆したのにも関わらず「被爆者」に認定されず、何の補償も受けられずに泣き寝入りして来たのです。

このうち84人の有志が原告となり、今から6年前の安倍政権下に、国を相手取って起こしたのが「黒い雨」訴訟でした。そして、昨年7月29日、広島高裁は原告の主張を全面的に認め、原告84人全員を被爆者認定して「被爆者健康手帳」の交付を国に命じました。原告はすべて80歳を超えた高齢者で、この時点で、すでに12人が亡くなっていました。それなのに、当時の安倍晋三首相は、この判決を不服とし、こともあろうに上告したのです。まさに血も涙もない鬼畜の所業です。

そして、1年後の今年7月14日、広島高裁は、前回の一審判決を支持した上で、さらに認定要件を緩和した素晴らしい判決を下しました。しかし、これまでの自民党政権の冷酷な対応から、原告団も弁護団も菅義偉首相が上告すると見ていました。高齢者ばかりの原告団は、すでに19人が亡くなっており、もう時間がありません。そこで、広島県と広島市は国に対して上告を断念するように働き掛けました。

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