2点目は、デパートは対面販売です。つまり購入行為には長い会話が伴っているわけです。例えば、デリのポテサラを購入する場合に、スーパーであればパックを手に取ってカゴに入れるだけですが、デパ地下の場合は冷蔵ショーケースに山盛りになった商品を、客は「ポテサラの玉子入りを200グラム」というような言い方で口頭発注します。すると店員は確認の発声をします。
更に支払いも複雑です。最近のスーパーの場合は、支払いはレジから離れたステーションでセルフ対応するようになっていますが、デパートの場合は現金客も多く、店員が最後まで支払いのケアをします。購入プロセスの前後には、挨拶の発声が何度もあります。
食品だけでなく、衣料品も、雑貨も同じような対面販売ですし、例えば衣料品の試着などでは、似合う似合わないといった本人が決定すればいいものを、膨大な会話を続けて購入の決定をさせるような仕掛けになっています。スーパーや量販店など無言で購入が進む業態と比較すると、デパートの危険性は明らかです。
3点目は、デパートのイメージです。デパートは、知名度があり、とりあえず店構えも立派です。また感染対策とそのPRも見栄えが良いように工夫されています。ですが、その中身といえば「安全」よりも「安心」、つまり消費者の心理に訴えるような対策が重ねられています。
ですから安心感を出す演出はできても、サイエンスに基づいた効果については疑問というわけです。アクリル板やビニールシートを厳重にしても、膨大な会話を伴う対面販売ですから、シールドを強化すれば声量を大きくせざるを得ず、結局は飛沫対策はできても、マイクロ飛沫はガンガン飛ぶという本末転倒になっているからです。
特に問題なのが、店員のマスクの上にフェイスシールドを重ねたスタイルで、これもマイクロ飛沫には効果はそれほどないわけですが、この厳重な外観が「安心感」を与えてしまうために、店員も客も延々とトークを続けても「怖くない」という恐ろしい状況になっているわけです。
4つ目は、イメージとは別にデパートというのは衰退産業であり、経営基盤は非常に脆弱という問題があります。業態として過去のものとなりつつあり、収益力は先細り、にも関わらず人件費、減価償却、光熱費など固定コストは膨大という中で、インバウンドの爆買いで食いつないできたデパートは、一見すると派手なイメージを保ちながらも潜在的には「即死」する危険を抱えています。
ですから、抜本的な対策は難しいし、また休業するだけの経営体力もありません。その一方で、デパートという産業の衰退は誰の目にも明らかであるので、公的資金による過度な補償や救済への理解も得られないでしょう。コロナ禍の中で、デパートというのは非常に難しい位置にいると考えるべきと思います。
(メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』より一部抜粋)
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