性暴力や拷問、虐殺も。タリバン報道の裏で進行するアフガン以上の悲劇

 

そのような中、途切れ途切れではありますが、伝えられてくる情報のかけらを集めて分析してみると、いくつかの懸念すべき状況が見えてきます。

一つ目は、各地で繰り広げられる武装勢力による一般市民への虐待や人権蹂躙の横行です。

TPLFが侵攻したアムハラ州やアファール州では、TPLFの構成員による一般市民のリンチや組織的な性暴力、18歳以上の成人男子の殺害、脅迫と拷問の末、無理やりTPLF側の戦闘員にされてしまうという事例が頻発していると言います。それを逃れた者たちが、政府軍側に協力してTPLFへの反攻に加わっていると言われています。

しかし、政府軍サイドも決して正義の味方ではないようです。TPLFが行っているのと同じような内容の蛮行がTPLFとの交戦エリアで繰り広げられており、それを常に情報ルートを使ってTPLFの仕業と非難しているという主張をしているようです。特に政府軍がティグレ州で行っているティグレイ人への拷問や虐殺、集団的性犯罪などは残虐性を極めているという情報があり、それを指示しているか、もしくは黙認しているアビィ首相と繁栄党のTPLFに対する怨念とも感じられる状況です。

そして状況をさらにややこしくしているのが、隣国エリトリアの紛争への介入です。昨年11月の戦闘時には、TPLFによって首都アスマラの空港にロケット弾が撃ち込まれたが、越境はせず耐えたと伝えられていましたが、実際には越境し、アビィ首相と政府軍と協力して、TPLFを挟み撃ちにして、TPLFを山に追い込んだというのがどうも事実のようです。

その後、一旦エリトリア軍は撤退しましたが、今年6月の戦闘激化を機に、また越境し、TPLFのリーダーであるゲブレミカエル氏に瀕死の重傷を負わせ、その後もティグレ州に居座って、州内で一般市民に対する蛮行を繰り返しているということのようです。

情報インフラが遮断され、ティグレ州の情報がなかなか伝わらない中、どのようにそのような実情を掴んだのか。

それは、昨年11月の停戦合意時に、ティグレ州から隣国スーダンに避難した4,4000人以上に上る避難民に対する国際的な支援受け入れをアビィ政権が同意したことにより、欧米諸国およびUN機関による支援体制ができ、多くのスタッフが現地入りしていますが、6月の戦闘再開以降、彼らもスーダンに退避したり、支援スタッフの緊急連絡用のネットワークを使ったりして、北部エチオピアの惨状と、アビィ政権側の蛮行、そしてそれに加担するエリトリアの様子が伝えられてきました。

そして、ここ数か月ほど、ティグレ州とスーダンの避難民に国際的な支援を届けるための主要ルートにあるテケゼ橋が何者かによって爆破され、現在、ティグレおよび避難民への支援が届かない様子とのことで、対象地域における食糧事情や衛生状態が著しく悪化しているという報告がもたらされています。

まさに人道的な危機が発生しています。

政府軍側はTPLFによる犯行との声明を出していますが、TPLFにとってそのような行為を行う理由が見当たらず、支援を行う国際機関や欧米諸国はアビィ政権側の言い分を受け入れず、代わりにアビィ政権軍とアムハラ州軍によるティグレに対する非人道的な行為とみなして、激しく非難するに至っています。

それを受けて、すでにアメリカのバイデン政権は対アビィ首相およびエチオピア政府に対する支援を凍結し、同時にアメリカ政府はエチオピア政府に制裁を課しています。

そして最近、越境してティグレ州の一般市民に対する非人道的な行為を繰り返しているエリトリア軍も、米政府のGlobal Magnitsky Human Rights Accountability Actを適用して、制裁対象としています。

欧州各国政府もそれに続くようで、今後、対エチオピアおよびエリトリアに対する制裁が課されることになりそうです。もちろん、エチオピア政府のアビィ首相も、隣国エリトリアも全面的に非人道的な行為に対しては否定していますが、それが制裁の発動を食い止めることにはならなさそうです。

TPLF側も、政府側も、そしてエリトリアも人権侵害に加担していることは明らかですが、欧米諸国が執拗にアビィ政権などを非難する理由は、さまざまな背景がありそうです。

国際情勢の裏側、即使えるプロの交渉術、Q&Aなど記事で紹介した以外の内容もたっぷりの島田久仁彦さんメルマガの無料お試し読みはコチラ

 

print
いま読まれてます

  • 性暴力や拷問、虐殺も。タリバン報道の裏で進行するアフガン以上の悲劇
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け