性暴力や拷問、虐殺も。タリバン報道の裏で進行するアフガン以上の悲劇

 

一つは、アメリカの政権が、人権尊重を含む原理原則を重んじる民主党のバイデン政権になっていることが考えられます。ミャンマー情勢や対中国非難、そして最近のアフガニスタンへの対応など、人権尊重理念のダブルスタンダードという非難をぬぐうかのように、今回の件を使っているような感じもします。そしてその動きに、同じく人権規定適用のダブルスタンダードと非難されてきた欧州各国も賛同しているのではないかと思われます。

二つ目は、米中対立の舞台としてのエチオピアの位置づけです。エチオピアと言えば、ティグレ人による前政権時代より親中国の政策を進め、中国の支援の下、インフラ案件を進めてきました。それが過去10年以上続いている年率10%平均の経済成長率に繋がっていると言われています。

首都アジスアベバの主要なビルは、アフリカ連合の本部ビルも含め、ほとんどが中国による整備と言われており、最も中国の影響が及んでいる東アフリカの国という位置づけになっています。

隣国ジブチの軍港を中国が獲得し、港からエチオピアの首都アジスアベバまで引かれている鉄道も中国による整備で、今ではエチオピアの貿易とジブチの自立のためには不可欠なインフラと理解されています。

しかしエチオピアには、アメリカも大きな拠点そして戦略的な重要性を置いています。

それは、ブッシュ政権時に行ったGlobal War on Terror(テロとの戦い)を遂行するために設置されたCIAのBlack Siteがエチオピアにあると言われています。

この拠点は中東地域およびアフリカをカバーするとされており、その維持・運営、そして受け入れのために、米国政府もこれまでエチオピア政府の支援を手厚くしてきたという過去があります。

ゆえにアメリカとしても、この戦略的な拠点の目と鼻の先に中国が軍事的な拠点を築き、そして経済的な覇権を拡大しようとしていることを安全保障政策上、良しとしていません。

ティグレイ紛争が勃発して以来、アメリカ政府は我慢強く事態の改善を期待し、アビィ政権をサポートしてきましたが、人権侵害への加担が明らかになった(もしくは強い疑いが生じた)ことと、状況が悪化していること、そして米国の人道的支援スタッフに危険が迫っているとの判断から、どうも堪忍袋の緒が切れたようで、対エチオピア制裁に乗り出したとのことです。

3つ目は、その状況を悪化させた隣国エリトリアへの怒りです。最近出されたブリンケン国務長官の発言を見ても苛立ちが感じ取れますが、「アメリカはすでにエリトリア軍が再介入している事実をつかんでおり、非常に懸念すると同時に、地域全体への紛争の国際化を招く事態になりかねない」と、エリトリアも制裁対象に加えました。

人権重視という哲学があることは理解できますが、エチオピアおよびエリトリアに対して制裁措置まで課すほどの状況の背後には、別のエチオピアがらみの地域(国際)案件が存在します。

それは、中国の支援の下、ナイル川上流(エチオピア)に建設されたグレート・ルネッサンスダム問題です。皆さんもご存じの通り、ナイル川はエチオピアを最上流として、スーダンを通り、最後はエジプトを縦断し、地中海に流れる世界の大河です。

流域国にとっては、主要産業である農業を支える大事な水源であり、また貿易と流通の主要な水路としても使われているのみならず、エジプトにとっては大事な観光資源でもあります。

その最上流にエチオピアが流域国に相談なく、中国の支援を受けて超大型のダムを建設し、取水を強行しようとしています。建設時より、エジプトとスーダンとは外交的、そして軍事的な緊張関係が作り出され、3か国からの仲裁を依頼された米国政府も、それぞれの意見や利害を踏まえたうえで、これまではあくまでも流域国の間で平和裏に解決すべきとの助言を行ってきました。

それが最近、アビィ首相が突如、取水の開始を宣言したことに対し、エジプトとスーダンが怒り、抗議が受け入れられないと悟ると、ダム周辺に向けて軍を展開させ、一気に緊張が高まっています。

エチオピア政府も、ティグレイ紛争を行いながら、エジプトとスーダンからの威嚇に断固として立ち向かうようですが、実はそれを背後で支えているのが、エリトリアのようです。

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