五輪も市長選も大失敗。菅義偉首相「最悪の退陣劇」を招いた7つの誤算

 

岸田立候補表明で機先を制されて

自民党の総裁選挙管理委員会が8月26日午前、9月17日公示・29日投開票の日程を決めると、岸田文雄=前政調会長がすかさず午後早々に記者会見して立候補を宣言、その中で党役員の任期は最長3年までとするとの公約を掲げた。言うまでもなく、安倍政権時代の16年8月から5年を超えて幹事長に居座り“老害”とまで呼ばれている二階俊博への牽制であり、二階を忌み嫌う安倍晋三元首相、麻生太郎副首相の「2A」への媚びへつらいである。

優柔不断と言われてきた岸田のこの素早い決断によって、菅がこだわってきた「無投票再選」の道は完全に塞がれた《誤算その3》。菅の日本語能力では、誰と論戦を交えても勝ち目はないけれども、岸田が相手では全く望みがない。しかもその岸田が早くも、二階の寝技から生まれた菅政権という最大の弱みを突きながら安倍・麻生への支持取り付けようとしている。さあ、どうしよう……。

8月29日、珍しく丸1日議員宿舎に籠って考えたものの、浮かんでくるのはまた「争点隠し」手法で、自分のほうから二階に引導を渡して幹事長を下させてしまえば、岸田はそこを突いてくることができなくなる上、安倍と麻生が岸田でなく自分を支持するようになるかもしれないではないか。それで早速、翌30日に二階を官邸に呼んで「近く行う党人事で幹事長を交代して頂きたい」と告げると、意外にすんなりと「どうぞ遠慮せずにやってください」と了解してくれた。そこまではよかったのだが、その先で何が何だか分からなくなるような迷走・暴走が始まる。

二階だけを下ろしたのでは名分が立たないから、党人事の一新という形をとり、少なくとももう1人、下村博文=政調会長を交代させる。党3役のポストが2つ空くので、そこに小泉進次郎=環境相や河野太郎=規制改革相ら人気の高い若手を嵌め込んで、菅が2人を両脇に抱えて難題に挑むという格好で総選挙を戦っていく……というイメージだったのだろう。

しかしこのせっかくの希望的観測もまた難航する。まず第1に、総裁選がこれから始まるという目前に党の人事をいじったり、総選挙の日程が迫っている時に閣僚を入れ替えたりすることの非常識である。当たり前のことで、総裁が交代すれば党役員は入れ替えになるし、総理が交代すれば閣僚は総入れ替えになる。それでも強行するのは「私利私欲、個利個略」だという声が党内に広がった。しかも、第2に、その人事を行うのは今や落ち目の菅である。小泉にせよ誰にせよ、抱き合い心中になるのを覚悟で一緒に泥舟に乗ってくれないかというに等しいこんな誘いに乗るはずがない《誤算その4》。

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