五輪も市長選も大失敗。菅義偉首相「最悪の退陣劇」を招いた7つの誤算

 

ではいっそ9月解散で総裁選先送り?

そうした中で菅が乏しい脳髄を絞って思いついた荒技が、どうせ負けるような総裁選なら先延ばししてしまえ、ということである。すでに党機関が決めている日程を覆す方法が1つだけあって、何らかの理由を付けて9月中旬に衆議院解散・総選挙を断行してしまえば、総裁選は自動的に選挙後まで先送りされる。しかしその「何らかの理由」が見つからないし、菅自身が「コロナ対策を最優先し全力で取り組む」と口癖のように言っている最中に、そんなことができる訳がないだろうと小泉ら周辺の者たちが諫め、その案を伝え聞いた安倍も直接電話をかけて駄目だとクギを刺したという。こうしてこの奇策もまた1日で消えた《誤算その5》。

それでようやく熱病状態から醒めたのだろう、菅は9月2日、二階と会って、9月解散はなく、総裁選は予定通りに実施されるので、自分も立候補するつもりであることを伝えた――と新聞などではアッサリと報じられたが、私は全くの推測ながら、ここでの二階の反応が菅の翌日の唐突な退陣宣言の引き金を引いたのではないかと見ている。

1つは翌3日に予定された自民党の臨時の役員会とそれに続く総務会で、菅はまだ諦めてはいない総裁選前の党人事の一新について一任を取り付けた上、6日に断行するつもりでいたが、おそらく二階は、特に総務会での一任取り付けが容易ではないと伝えたのではないか。全会一致を原則とする総務会で異論が続出して決められないとなると、総裁への不信任に等しいことになる。

もう1つは、これも推測だが、総裁選に出る以上は二階派の支持を頂きたいと申し出た菅に対し、二階は支持を明言しなかったのではないか。二階派の若手には菅への反発が強く、以前に二階が「菅支持」を口にしたのに対し派の会合で「勝手に決めないで我々の意見を聞いてくれ」との声が上がり、そのため派としてまとまって行動するとの合意はなされていない。しかも二階自身が、二階を切って自分だけが生き残ろうとしている菅を快く思っているはずがないから、今さら派内を説得して菅支持で一本化する努力をしないだろう。すると無派閥で、しかもその中でも比較的忠実だった側近を何人もスキャンダルで失っている菅は、現職総理だというのに果たして20人の推薦人を集められるのかという漫画的な事態に直面しかねない《誤算その6》。

こうして、9月2日の菅・二階会談の不調で菅はまさに万策尽きたことを思い知り、その夜眠らずに考えて、翌3日午前の自民党役員会の場で不出馬を宣言することを決めたのではないか。

高野孟さんのメルマガご登録、詳細はコチラ

 

print
いま読まれてます

  • 五輪も市長選も大失敗。菅義偉首相「最悪の退陣劇」を招いた7つの誤算
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け