皮肉にも自民党を救った菅義偉首相ジタバタ「不出馬劇場」に騙されるな

 

だが、横浜市長選の惨敗をみると、総選挙で自公が過半数を割る恐れさえ出てきて、不安が党内に広がった。そんな空気を無視し、総裁選を先に延ばして解散するのは、あまりにも自分勝手と見られ、菅氏の政治生命にもかかわる。

菅首相は9月1日、「最優先は新型コロナウイルス対策だ。今のような厳しい状況では解散できる状況ではない」と9月解散を打ち消した。しかし、一時は解散に気持ちが大きく傾いたのは事実だろう。

8月22日に横浜市長選が終わり、同26日に「9月17日告示、29日投開票」と総裁選の日程が決まった。この時点では、菅首相にはまだ総裁選に勝てるという自信が残っていたに違いない。

横浜市長選はしょせん地方選挙であり、国政には影響しない。「菅首相では戦えない」という党内の声はあっても、二階幹事長はもとより安倍前首相や麻生副総理も支援を表明してくれている。そのように思うことで自分を納得させていただろう。

ところが、総裁選の日程が決まったその日に、二階、安倍、麻生の支援網を引き裂くような出来事があった。

総裁選への出馬表明をした岸田文雄氏が「権力の集中」と「惰性」を防ぐため、総裁を除く党役員の任期を「1期1年連続3期まで」とする考えを示した。「自民党を若返らせる」と宣言し、「二階切り」を印象づけたのだ。

5年以上にわたり幹事長として自民党を牛耳る二階氏については、安倍、麻生両氏から交代要求が突きつけられ、菅首相にとっては悩みの種である。その課題に答えを出して総裁選に打って出た岸田氏の行動に、菅首相がどれだけ動揺したかは想像に難くない。

岸田氏にしては珍しく明快で力強い言葉。テレビの識者、コメンテーターに受けがよく、世間に好印象として伝わった。これまで影の薄かった岸田氏はあっという間に、総裁選の有力候補に躍り出た。

一方、菅首相は総裁選に弱気になった。党役員の若返りという岸田氏の示した争点にインパクトを感じたからだ。焦りと迷いのなかからひねり出した岸田氏への対抗策は、菅政権の生みの親ともいえる二階幹事長を含めて党役員の刷新を行うことだった。自らこれを断行すれば、岸田氏の繰り出したカードを無力化できる。

菅首相(自民党総裁)は30日、次期衆院選前に自民党の二階幹事長の交代を含む党役員人事を行う検討に入った。…首相は30日、首相官邸で二階氏と会談した。二階氏は周囲に首相が交代が必要と判断すれば、容認する意向を示しているという。
(8月31日、読売新聞オンライン)

むろん、二階氏が無条件で了解するとは思えない。副総裁ポストを提示するなど、菅首相は一定の配慮をしたはずだ。だからこそ、二人の人間関係は決裂せず、二人が居住する衆院議員会館内で翌31日夜にも話し合っている。

役員刷新について二階氏の了解をとりつけるや、菅首相にはまた別の考えがふくらんだ。刷新の目玉として小泉進次郎氏を幹事長に据え、解散・総選挙を打てば、勝てるかもしれない。菅首相はさっそく動いた。が、打診を受けた小泉氏から色よい返事はない。

当然だろう。小泉氏も将来ある身だ。なにも慌てて幹事長になり、泥船の船長をつとめる必要はないのだ。菅首相は小泉氏以外にも、あれこれと清新な役員の顔ぶれを思い描き、何人かにあたってみたかもしれない。しかし、首尾よくいかなかったとみえる。

こうした一連の動きが「政権幹部」から、毎日新聞の記者に漏れ、すわ解散か、となったのではないか。

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