中国空軍149機の「台湾侵入」は本気の警告。火に油を注いだ米国の動きとは

 

そして、対中包囲網をより狭めるだろうと思われるのが、ドイツにおける政権交代でしょう。

Pro-businessの政策姿勢を取り、人権問題では激しい非難をするものの、対中経済制裁には及び腰だったメルケル首相から、国内で高まる中国への懸念と反感を受けて対中強硬派と言われるSPD(社会民主党)のショルツ氏が後継の首相になる予定であることで、ドイツも対中包囲網により積極的に加わることになると思われることも、中国政府を苛立たせているようです。AUKUS的な軍事同盟への加担はないと思われますが、クワッド的な経済安全保障面での中国包囲網へのドイツの参加は可能性大かと考えます。

そうなると、これまで以上に米中対立を軸とした世界の2極化(実際には第3極や4極も存在する多極化だと思われますが)がより顕在化することとなります。

しかし、ここにきて対立構造の固定化とエスカレーションを何とか止めたいという動きが、米中両国間で出てくるようになってきました。

一時期は「台湾海峡を挟んで米中の直接戦争もやむなし」という見解が強まった時もあり、実際に両国軍の対峙のレベルも上がった時期もありましたが、主にアメリカ政府側から働きかける形式で、何とか米中関係の回復の機会を模索しているように思います。

関係修復のベストチャンスは、バイデン政権成立後の2月にアラスカで行われた米中外交対話だったのですが、当初の予想に反し、米国サイドが大変厳しい非難を中国に浴びせかけ、中国サイド曰く「上から目線で説教された」という状況で、関係修復の機会は吹っ飛んでしまいました。

その後、気候変動担当の大統領特使になったケリー氏を通じて、気候変動フロントで何とか米中協調のきっかけを探ろうとしましたが、こちらも「気候変動問題には、中国政府は常に国際社会と協調し、コミットしてきた。中国にああしろ、こうしろをいうのは失礼かつ不適切ではないか?」と返し、仲直りのきっかけは生まれていません。一応、バイデン大統領主催の気候変動サミットには習近平国家主席も参加しましたが、あくまでも中国の姿勢を繰り返すだけで、新たなコミットメントを引き出すことはできませんでした。

しかし、最近になって、バイデン大統領から電話会談で要請された「中国による海外の石炭火力発電所への投資と支援の停止」というポイントに対しては、当初は否定していたものの、習近平国家主席自ら国連総会の一般討論演説の中でその方針を発表し、“歩み寄りの姿勢”を示したように思われます。COP26がもうすぐ開催されますが、米中間でどのような話し合いがなされるのか、非常に注目です。

その雪解けの兆しは、米中対立の元凶となった貿易問題でも生まれつつあります。今月に入って、対中強硬派で知られるUSTRのタイ代表が、中国の副首相である劉鶴氏との協議を再開しました。

「対話を通じて不公正な貿易慣行を是正したい」というアメリカ政府から中国政府に対する厳しい姿勢は崩していないものの、「制裁関税の適用除外セクターの復活」を匂わせるといった譲歩も見せているのは、非常に興味深く、期待できる動きだと考えます。

そのセクターが何になるのかはまだ明らかにされていませんが、再生可能エネルギーの普及や気候変動技術、医療をはじめ戦略物資のインフラ関連セクターなどが対象になるのではないかと思われ、COP26を前に、貿易面から脱炭素での米中協力の演出を、両国で企図しているのではないかと見ています。

この背景には、下がり続ける支持率に苦慮するバイデン政権にとって、何か起爆剤になるものが必要という背景があるようで、もし中国との商取引および貿易を再活性化できれば、ビジネスセクターからの支持は増えるかと思われますし、さらに、困難ではありますが、農業部門での協力も回復できれば、農村部の支持率も回復が見込めるのではないかと考えられているようです。

中国サイドは強硬姿勢を崩していませんが、対話には応じる姿勢で、10月4日にはスイスのチューリッヒでサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)と中国の外交トップである楊中国共産党政治委員との間での協議が実現しているのは、良い姿勢の表れかもしれません。

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