沖縄のやんばるの森に、オキナワマルバネクワガタという国内希少野生動植物種に指定されている種が棲息している。オガサワラシジミと同様に採集も飼育も生体や標本の譲渡も禁止というクワガタムシである。私の沖縄の友人で、この種を指定前から累代飼育している人がいる。環境省も指定前から飼育している人に限っては、累代飼育を認めているが、生体や標本の譲渡は禁止である。
ところが、この友人はクワガタ飼育の名人で、どんどん増えて困っているようだ。他人に譲渡できないので、どうしようもないのだ。この友人に何かあったら、この累代飼育系列は途絶えてしまう。希望者に配ってあちこちで飼育をしてもらえれば、絶滅リスクは回避できる。野外から採集してくるわけではないので、野外個体群に対する侵襲はない。
累代飼育している個体を譲渡できない理由が私には理解できない。もし、野外個体群が絶滅したら、種の絶滅を回避する頼みの綱は飼育個体だけだ。“種の保存法”というのは、名前とは裏腹に”種の絶滅促進法”だと思わざるを得ない。
(『池田清彦のやせ我慢日記』2021年11月26日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください)
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