チェーン店なのに個性丸出し~「店長はプレジデント」の秘密
「焼肉きんぐ」には、全国チェーンとは思えない仕組みがある。
香川県高松市の高松屋島店。もちろん食べ放題だが、店独自のサービスがあった。野菜スープを注文した客に「焼いたお肉をスープに入れて」と、カルビも持ってきてメニューにないアレンジレシピを薦めていた。店独自のサービスは厨房でも。食べ放題コースのデザートの食材を使った盛大なバースデーサプライズだ。
「焼肉きんぐ」では、店ごとに独自のサービスが自由にできるという。
「マニュアルがないので、『こうやったらお客さんが喜んでくれるのではないか』と、楽しみながらやっています」(大庭 拓也店長)
愛知県豊橋市の花田店でも、店独自の取り組みを仕掛けていた。それが「食べ残し“0”チャレンジ」。食べ残し・飲み残しがなかった客には、ドリンク無料券をサービスするという。店員が集まっての検証会議では、客が注文する肉の量や席の回転数など、さまざまなデータを検証していた。
「プレジデントとして扱っていただいて、店ごとに、売り上げの施策ややりたいことをやらせてもらえるので、やりがいはバッチリあります」(戸澤祐太店長)
物語コーポレーションでは店長を「プレジデント」と呼び、大きな権限を与えている。愛知県豊橋市にある本社の壁に飾られているのは、全国の店舗を任される店長たちの写真。それは「自分で決めていい」と店を任されている証だった。
そこには、「I shall make a decision」の文字も。「意思決定は私自身が行います」――小林が最もこだわる言葉だ。
「みんな『私は自分の意思で絶対に意思決定をします』と宣言してくれている。自分はそれで失敗してきたから」(小林)
2010年に取材した物語コーポレーションの会社説明会。志望する業種も定まらない中、なんとなく参加した学生も多かったが、彼らがなぜか、小林の話を聞くと考えを一変させる。2時間に及ぶ熱弁を聞いた学生たちからは「来て良かった」「受けようと思う」という声が続出した。
小林が学生たちに話すのは、会社の説明でなく、自らの就活の物語だった。慶應大学の学生だった小林は、親を喜ばせようと有名企業を手当たり次第に受けたが、結果は全落ち。結局、母の勧めで母が営む和食店に入り、30歳で社長を任されたが、うまくいかなかった。
小林は自分の問題点に気付く。それは、自分で意思決定してこなかったということ。小林が学生たちに訴えたのは、自分の人生は、自分の意思決定でしか前へ進まないというメッセージだった。
自分で意思決定できるリーダーを育てたい、そんな小林の思いが、壁一面に掲げられたプレジデントの写真に込められているのだ。