日本の「第6波対策」は正解か?コロナ禍と闘う長尾和宏医師の著作を紐解く

 

町医者にもかかわらずコロナ患者を診つづけた長尾医師

ただ、新型コロナの“2類から5類への格下げ”を求める声は、医療の現場からも早い段階からあがっていた。兵庫県尼崎市にて長尾クリニックを営む長尾和宏氏も、そのひとりである。

自らを“けったいな町医者”だと標榜する長尾氏は、地域医療の担い手としてこれまで2,000人以上の患者の在宅死を看取ってきた人物。その経験をもとに数々の著作やメルマガ『長尾和宏の「痛くない死に方」』などを通じ、家族など大切な人の死や、やがてやってくる自らの死にどう受け止め備えていくかを、広く世に問いかけてきた。

そんな長尾氏による著作『ひとりも、死なせへん コロナ禍と闘う町医者、551日の壮絶日記』は、中国・武漢で新型コロナの感染拡大が報じられ、日本でも「指定感染症」に指定された2020年1月末から、長尾氏自身がコロナ医療の最前線に身を投じていった日々の記録を綴った一冊である。

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ブックマン社

それを紐解いていくと、長尾氏は豪華クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で集団感染が発覚するも、乗員乗客を船内に留め置く措置を取ったことで、陽性者がどんどん増えていく状況を受け、「すべては新型コロナ感染症が『感染症法2類』に指定されたことに起因する」と、2020年2月7日の記述のなかで指摘。この段階で早くも、新型コロナに対する“2類相当”の扱いに否定的なスタンスに立っていたのだ。

しかし“未知のものへの恐怖”を抱く一般大衆と、それを煽るマスコミによって、新型コロナに対して過度に厳格な対応することを支持する世論が、その後形成されていったのはご存じの通り。先述の通り“2類相当”だと、長尾氏が営むような町のクリニックは、コロナ患者の診察はできない。しかし長尾氏は、自身のクリニックで発熱外来を展開する形で、新型コロナと真正面から向き合っていくという道を選択。まさに寝食を忘れて医療活動に従事し、さらに自宅待機を余儀なくされた患者には、自らの携帯番号を渡して随時連絡できるようにするなど、24時間体制の戦いに身を投じていく。

長尾氏はそんな日々の記録のなかで、新型コロナの“5類格下げ”を徹頭徹尾、一貫して訴え続けている。5類にすることで、開業医による“早期診断”やイベルメクチンの投与といった“即治療”が実現し、重症化する患者を今までより減らすことができる。また入院が必要なほどの症状ならば、開業医から大病院に直接依頼することで、従来の保健所による差配で発生していたタイムラグもなくなる……長尾氏は“5類格下げ”の主なメリットをこう主張する。

日記のなかには、コロナ患者を積極的に受け入れる長尾氏に対しての嫌がらせか、クリニックの窓ガラスが割られてしまう被害を受けたという生々しい話も。さらに感染拡大の初期には、コロナ感染が疑われる患者へのPCR検査を求める長尾氏の要請を無碍に断っていた保健所が、その後さらに感染者数が増えだして対応が追い付かなくなると、逆に長尾氏のクリニックに患者をどんどんと回すようになったという、保健所の混乱や機能不全ぶりを表すエピソードも紹介される。

さらに本書では、新型コロナに感染をした高齢者の扱いに関する問題提起も多い。とりわけ最近は“認知症のおひとり様”が増えるなか、そういった方もコロナ陽性となるケースも多々あるようで、自身がコロナに罹っていることを説明した傍から忘れてノーマスクで振舞う患者と、近隣の民生委員や見守りの協力者の方たちをも巻き込んで繰り広げられるちょっとした騒動も取り上げられているが、そこには病院・ホテル・介護施設などが、同じ陽性者でも認知症の方は断るという背景があるとのこと。

長尾氏は「コロナ対策に認知症という視点がスッポリ欠落しているのだ」と述べているが、新型コロナへの対応にくわえ、従来から取り組んでいる地域のお年寄りなどへの訪問医療も並行して行ってきた長尾氏ならではの視点だろう。

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