受験を機に親子関係の崩壊が進む
わたしのところにも受験する子を抱えた親から相談が寄せられる。その多くは、「毎日勉強する約束をしたのに守らない」とか「言うことを聞かず、頭にきてたたいてしまった」などだ。
偏差値は親が望むようにそう簡単には上がらない。親が焦って子どもをしかりつければ、子どもは自信を失い、ストレスをため、親子関係に亀裂が入ってしまう。
実際、受験を機に、親子関係の崩壊が進む傾向がある。ストレスをため込んだ子どもは弟や妹、ペットをいじめたり、学校でもトラブルを起こしたりするようになりやすい。
本来、小学校時代は学習の基礎をつくるとともに、親子関係の土台を築くときだ。受験、受験で最も重要な親子関係を忘れてしまうと不信の根が育ってしまう。
わたしは中学受験をすべて否定するつもりはないが、こうしたリスクがあることに無関心な親が多い。
もう一つのリスクは、不合格時の子どもの挫折感だ。受験で失敗した子が恥ずかしくて地元の公立中学校へ入学できなくなるケースもたくさんある。
そのため、あまり望まなかった第5志望の私立中学などへ進学したり、学区を変えて公立中学に行ったりする子もいる。
その挫折感をずっと引きずり、「本当はこんな学校に来たくなかったのに」と、中学時代の3年間を悶々(もんもん)と過ごす子もいる。
なんとかギリギリで志望校に合格したとしても、余力がないと後が大変だ。もともと同じレベルの子たちが集まっているので、ほんのちょっとつまずいただけで、たちまち最後尾ということになりかねない。
すると、学校側から塾に通ってくれとか、家庭教師をつけてくれとか要請され、受験勉強中に勝るとも劣らない勉強漬けの日々が繰り返される。それでもついていけず、場合によっては不登校や転校という結果になることもある。
塾の先生たちは、自分の教え子がどの程度の実力があるか一番よく分かっている。「この子はこの学校に入ってもついていくのが難しい」ということも分かっているのだ。
だから、「この学校には、もしかしたら受かるかも知れませんが、入ってからが大変ですよ」と一言、子どもや親に伝えてやるべきだと思う。
わたしは、ある受験掲示板に「塾の先生がそう言ってくれたので、志望校を変えた」という親のコメントが載っているのを見たこともある。こういう塾の先生もなかにはいるようだ。だが、このような良心的な例は極めてまれだろう。
無理やりでも偏差値の高い学校に入れた方が自分や塾の実績になるのだろう。だが、いやしくも子どもの教育に携わる立場ならば、入学後の子どものことにも配慮して欲しい。