既存のテレビ局は“終了”へ。なぜNetflixとここまで差がついてしまったのか?

 

次に感じたのは、Netflixのグローバル・コンテンツ戦略の脅威です。Netflixは、国ごとに必要とされているコンテンツは異なる、という信念の元に、いくつかの国にローカル・コンテンツを制作する拠点を作り、それぞれの国の担当者に「その国の加入者を増やすコンテンツ作り」に専念するように指示したのです。

その結果作られたのが、韓国発の「イカゲーム」や日本発の「新聞記者」なのです。「イカゲーム」は韓国だけでなく、世界中でヒットになりましたが、それは決して、「ハリウッドの真似をして世界を狙ったコンテンツ作り」の結果ではなく、「韓国市場向けの韓国人による作品」が、そのクオリティの高さにより世界に通用してしまった結果なのです。

「新聞記者」の方は、ベースとなった森友学園事件等の知識を持つことがコンテンツを楽しむ上で重要な役割を果たしているため、グローバルでの大ヒットには至るとは思いませんが、作品そのもののクオリティも出演者たちの演技も超一流であり、「イカゲーム」に決して負けていません。

つまり、このクオリティの作品を作り続けていれば、「イカゲーム」のように世界で大ヒットする作品も日本から生まれても全く不思議はないのです。私が日本のクリエーター(監督、脚本家、演出家)であれば、日本の放送局の下請けとして働くのはすぐに辞め、Netflix向けのコンテンツ作りに専念するだろうと思います。

こんなことを書いているうちに、「私がNetflixのコンテンツ担当者だったらどんな戦略を立てるだろう?」と考え始めてしまいました。

まず最初にすることは、既存の放送局から(『日本沈没』のような)コンテンツを購入することをストップします。これほどコンテンツ力に差がついてしまった今、放送局からコンテンツを買う必要は全くありません。

次にやることは、日本で過去に成功したテレビドラマをリストアップし、それぞれに関して、リメークする価値があるか、リメークする際に放送局を排除して原作者と直接契約することが可能か、を調べます。

たとえば、月9の代表作とも言える「東京ラブストーリー」。スマホがない時代だからこそのすれ違いがありますが、あのドラマに流れるテーマは時代を超えて普遍なので、すれ違いの部分だけ上手に作り直せば、今でも十分に使える素材だと思います。原作は柴門ふみさんが『ビッグコミックスピリッツ』(小学館)に掲載した漫画なので、彼女や小学館がフジテレビと「ドラマ化の独占契約」さえ結んでいなければ、(フジテレビを排除して)新たに脚本を作り直してリメークすることは十分に可能です。

「東京ラブストーリー」に限らず、日本の漫画業界には素晴らしい作品が溢れているので、それらの実写化をコツコツとしていくのもありだと思います。

「アニメ化で十分じゃないか」と考える人も多いと思いますが、アニメだとどうしても市場が限られてしまうので、実写化の方がNetflix全体にとっての価値は大きいと思います。

とは言え、ジブリ作品や新海誠監督の作品クラスのものは別格なので、彼らの新作に投資するという戦略もありだと思います。新海誠監督に関して言えば、「天気の子」に続く「すずめの戸締り」の制作は既に始まっていますが、その次の作品を取りに行きます。

彼の新作が「Netflixでしか見れない」となれば、それだけのために加入する人はたくさんいるでしょう。新海誠さん自身にとっても、「いきなり世界で勝負する」チャンスが得られるので、悪くないと思います。

ジブリ作品は、せっかく良いものを作っても、配給権を持つWalt Disneyが全く本気で上映してくれない状況(アカデミー賞を取った「千と千尋」ですら、米国での上映館の数は、ごくわずかでした)がいまだに続いています。ジブリとDisneyとの間の契約がどうなっているかを調べ、可能であれば、Disneyとの関係を絶って Netflixだけで新作を配信するという関係を結ぶことを目指すと良いと思います。

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image by: Vantage_DS / Shutterstock.com

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