ホンマでっか池田教授による「絶滅とはそもそも何か?」という考察

shutterstock_758018137
 

先日、オーストラリアが東岸一帯に生息するコアラを絶滅危惧種に指定したとの報道がありました。誰もが知る愛くるしい姿が地球上から消えてしまう事態は極力回避したいものですが、長い地球の歴史を見ると、コアラも人類もいつかは絶滅する運命にあるのかもしれません。今回のメルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』では、生物学者でCX系「ホンマでっか!?TV」でもおなじみの池田清彦教授が「絶滅とはそもそも何か」を考察。個体の死から単為生殖種の存在や系統の絶滅まで、さまざまな角度から論じています。

「ホンマでっか!? TV」でおなじみの池田教授が社会を斬るメルマガ詳細・登録はコチラ

 

絶滅についてちょっと深く考える

2019年に上梓した『もうすぐいなくなります-絶滅の生物学-』が文庫化された。生物の絶滅についての書と言えば、カンブリア紀以来現在までに起きた5度の古生物の大量絶滅について論じたものか、近年になり人類の活動により絶滅したり、絶滅に瀕していたりしている野生動植物について論じたものがほとんどで、絶滅とはそもそも何かといった本質的な考察にまで立ち入っているものは少ない。

発売直後にアマゾンのカスタマーレビューが2点出ていたが、一つは余りにもヒドイので、無視すればいいとは思うけれども、ここにその全文を載せておく。

「年代順に生き物の歴史をダラダラと並べているだけ。こんなもん誰が面白いと思うのか。買って後悔している」

この人は本当に本を買って読んだのだろうか。そもそもこの本は、生物の絶滅に焦点を当てて、様々なレベルの絶滅について論じたもので、年代順に生き物の歴史を並べてなどいない。どんな罵詈雑言のレビューを書かれても文句はないけれども、悪口を言うためだけに読んでもいない本のレビューを書くのは、さすがに勘弁してもらいたい。

というわけで、本題に入る。絶滅とは集団に起こる現象で、1個体が死んでも絶滅とは言わない。しかし、個体を構成する細胞のレベルで考えると、個体の死は細胞集団の絶滅と考えることもできるのだ。多細胞生物の個体は、通常受精卵から発生する。人の成体は37兆個の細胞の集団である。個々の細胞は基本的に受精卵と同じゲノムを持ち、DNAのレベルではほぼ同質の集団である。細胞をユニットと考えると、個体の死は、受精卵から始まり分岐して多様化した細胞集団の絶滅と考えることができる。

ゾウリムシのような単細胞生物は細胞=個体で、それ以下の生物学的なユニットはないので、ゾウリムシの1個体が死んでも絶滅する集団はない。絶滅とはあくまで、何らかの生物学的な同一性を有するユニットが全滅することで、種の絶滅はその典型例にすぎない。すなわち、同じ種という同一性を有するユニット(個体)が全滅すれば、その種は絶滅したということになるのだ。

「ホンマでっか!? TV」でおなじみの池田教授が社会を斬るメルマガ詳細・登録はコチラ

 

print
いま読まれてます

  • ホンマでっか池田教授による「絶滅とはそもそも何か?」という考察
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け